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エーゲ海

2016年6月21日 (火)

ロドス島 古代都市リンドス イアリュソスの丘 聖ヨハネ騎士団

Ookubomasao73Ookubomasao86_2Ookubomasao87_3大久保正雄『地中海紀行』第27回
古代都市リンドス イアリュソスの丘 聖ヨハネ騎士団
ラオコーン群像 三人の彫刻家ハゲサンドロス、ポリュドロス、アタノドロス

勝利の女神ニケが舞い降りる 古代都市リンドス。
ラオコーン群像、ミケランジェロが湛えた傑作。
リンドスの三人の彫刻家、ハゲサンドロス、ポリュドロス、アタノドロス
聖ヨハネ騎士団、オスマン帝国との攻防。

*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』

■聖ヨハネ騎士団
1103年聖ヨハネ病院騎士団はイエルサレムに創設されたが、1291年アッコン陥落の時、キュプロス島に移住し、1308年8月15日、聖ヨハネ騎士団はビザンティン帝國軍と戰い、ロドス島を征服、1310年根拠地にする。聖ヨハネ騎士団は、ロドスに城塞都市を築き、16世紀、ヴェネツィア人築城建築家バジリオ・デッラ・スコラによって胸間城壁をそなえた強固な城砦を築いた。
1522年8月1日、オスマン帝國第10代スルタン、スレイマン1世(1494-1566)は、聖ヨハネ騎士団が占拠するロドス島を包囲、5か月間攻撃を續行。スルタン率いるオスマン帝國軍20万。對する、聖ヨハネ騎士団騎士500人、傭兵1500人、戰闘可能な市民3000人。スレイマン1世は、イスラーム法に基づき「抗戰するか退却するか」選択を提示。武装解除せずに退去させることを約束する。12月19日、聖ヨハネ騎士団は、撤退を決意、1月1日この要塞都市を船で去る。ロドス島は、黒海、イスタンブール、地中海を結ぶ海上交易路、また地中海戰略上の拠点である。1530年、聖ヨハネ騎士団は、ヨーロッパを彷徨った末、マルタ島に移住。1798年、ナポレオンの包囲を受け、要塞都市ヴァレッタを放棄。ロシアに移る。現在、ローマ、コンドッティ通りにある。

■古代都市リンドス
リンドスの折重なる白い町の迷路から、石畳の坂を昇ると、糸杉に囲まれた中世の 城砦の城壁に辿りつく。丘の上、糸杉の樹林の間からリンドスの入り江が見える。城 砦の門から中に入ると、細い階段がある。入り江を臨むテラスの岩壁に、三段櫂船 (トリエレス)の浮彫りがある。紀元前3-2世紀の彫刻家ピュトクリトスの浮彫であ る。ピュトクリトスは、サモトラケのニケを作った彫刻家である。階段を上り、ビザ ンティン総督の館、聖ヨハネ礼拝堂を抜けると、ドーリア式列柱柱廊の前門に至る。 そして階段を上ると、リンドスのアクロポリス頂上に辿りつく。東のはしにアテナ・ リュンディア神殿が建つ。斷崖の上から、輝く紺碧の海が見える。

■リンドス 賢者と藝術家のポリス
リンドスに、紀元前7世紀、七賢人の一人、僭主クレオブゥロスが生まれた。クレオブゥロスは、「節度が最善である。幸運に恵まれても傲慢であってはならない。逆境に陥っても卑屈になってはならない。」と言った。ギリシア七賢人とは、ミレトスの人タレス、ミュティレネの人ピッタコス、プリエネの人ビアス、アテナイ人ソロン、リンドスの人クレオブゥロス、ケナイの人ミュソン、スパルタの人キロンである。(cf.プラトン『プロタゴラス』)
彫刻家ピュトクリトスが、紀元前3-2世紀、リンドスの工房で創作活動をした。紀元前190年ロドス島の人々は、セレウコス朝アンティオコス3世に対する勝利を祝して、サモトラケ島に、空から舟の舳先に降り立った勝利の女神、翼を持ったニケの像を建てた。このニケはピュトクリトスの作品である。

■ラオコーン群像
リンドスの三人の彫刻家ハゲサンドロス、ポリュドロス、アタノドロス
ヴァティカン宮殿ベルヴェデーレの中庭に置かれている、ラオコーン群像は、紀元前3-2世紀リンドスの三人の彫刻家ハゲサンドロス、ポリュドロス、アタノドロスによってリンドスの工房で作られた。ティトゥス帝(79-81)の宮殿に置かれていた。ペルガモン王國のために作られ、ローマ人によってローマに運ばれた、ヘレニズム彫刻の傑作である。ラオコーン像は、ルネサンス時代1506年1月14日、エスクィリーノの丘から発見された。ミケランジェロはこの作品を見て霊感を受けた。

■イアリュソスの丘
トリアンダの村から、フィレリモス山に上ると、大きなくぬぎの木が枝を広げ木陰をつくる広場がある。糸杉の並木道で囲まれた石段の坂を上ると、頂上に、イアリュソスのアクロポリスがある。紀元前三世紀のアテナ神殿礎石があり、パナギア・フィレリモス教会、ブーゲンビリアの花に覆われた回廊、聖ヨハネ騎士団の修道院がある。付近にミュケナイ時代の円形墳墓がある。紀元前1200年、ミュケナイ王國崩壊、王宮が炎上した時、ロドスのイアリュソスに移住した、ミュケナイ人の足跡である。
 重層する時間を湛えながら、時は止まる。糸杉の木立に囲まれた回廊は、時が止まった美しい空間である。生きてこの地を歩くことは、至上の歓びである。
 イアリュソスの丘の上、ヨハネ騎士団修道院からフィレリモス山頂きに向かう、美しい並木道がある。木々の幹がきらきらと輝き、松脂が光っている。燦々とひかる樹木の香りに身が包まれる。松の樹液の香りが漂う丘の上の並木道を歩くと、この世にこれほど美しい場所があるのか、夢の中を歩いているように思われる。あるいは前世の記憶が蘇り、前世でこの道を歩いたことを思い出すような氣がする。

■ロドスをめぐる攻防
紀元前323年、アレクサンドロス大王はバビロニアのバビロンで死ぬ。アレクサンドロスは遺書を殘さなかったので、大王死後、広大な帝國の支配權をめぐり、アレクサンドロス帝國の武將たちが抗爭を繰り広げた。だが、或る伝説によれば、大王の遺書はロドスに委託された(cf.シチリアのディオドロス『歴史』)。プトレマイオス、セレウコス、アンティゴノスが、後継者爭いを繰り広げる。ロドスの人々は、ヘレニズム時代、プトレマイオスと同盟を結び、東地中海貿易で榮える。ロドスは、ヘレニズム期、黄金時代を築く。
紀元前305年、アンティゴノス朝マケドニアのアンティゴノス1世(隻眼王モノプタルモス)は、王子デメトリオス攻城王(ポリオルケテス337-283)を派遣して、ロドスの人々と戰爭することを命じた。デメトリオスは、容貌の美しさが優れていたので、彫刻家や画家は作品を完成することができなかった。顔には愛らしさと品位と威厳と甘美が具わり、若さと氣力に加え、英雄的な輝きと王に相応しい重みがあった。だが戰爭以外の時、性格は放縦で獰猛であった。美しい容貌と優れた才能、そして醜い性格を持つ人間の生きた一例である。デメトリオスは、兵器の製作に特異な才能を発揮し、十六層艪船や巨大な攻城具(ヘレポリス)などの機械を製作していた。デメトリオスが製作した機械は巨大かつ巧緻であるのみならず美しかった。このため敵さえもこれを眺めるために時を費やした。デメトリオスは、ロドスの城壁に攻城具をすえつけ包囲。プトレマイオスとの同盟の破棄を迫る。ロドスの人々は勇敢に抗戰。紀元前304年、ロドスの人々は頑強に戰いを継續する。デメトリオスはロドス包囲を斷念、アテナイからの使節の調停により、ロドスの人々と講和条約を結ぶ。(cf.プルタルコス『對比列伝』「デメトリオス伝」)
紀元前302年、第4次ディアドコイ戰爭が起きる。リュシマコス、カッサンドロス、プトレマイオス、セレウコス、對アンティゴノス1世・デメトリオス同盟を締結する。紀元前301年8月イプソスの戰いにおいて、アンティゴノス1世、デメトリオス父子は破れ、アンティゴノス1世は敗死。セレウコス・リュシマコス連合軍が勝利する。リュシマコス、カッサンドロス、プトレマイオス、セレウコスの四王國成立。アレクサンドロス帝國の分割が行なわれる。
このようにして、ロドスは、プトレマイオス朝エジプトの庇護の下、紀元前168年までエーゲ海に君臨する。ロドスの黄金時代である。
★参考文献
Herrman Diels,Walter “Kranz Die Fragmente der Vorsokratiker” 3 Bande,Berlin, 1953
内山勝利編『ソクラテス以前哲学者断片集』全6巻、岩波書店1996-1998
プルタルコス河野與一訳『プルタルコス英雄伝』岩波文庫
プルタルコス『プルタルコス英雄伝』「デメトリオス伝」「カエサル伝」「キケロ伝」「ブルートゥス伝」「ポンペイウス伝」
W.W.ターン角田有智子・中井義明訳『ヘレニズム文明』思索社1987
橋口倫介『十字軍騎士団』講談社学術文庫1994 pp.125-126
周藤芳幸・村田奈々子『ギリシアを知る事典』東京堂出版2000
 11.ロドスとヘレニズム時代の東地中海 pp.204-223
塩野七生『ロードス島攻防記』新潮社1985
ロレンス・ダレル土井亨訳『海のヴィーナスの思い出 ロドス・太陽神の島1945-1947』新評論1999
トゥキュディデス 久保正彰訳『戰史』岩波文庫1966-67
★ロドス島 イアリュソスの丘
★ラオコーン像 騎士団長の館
★ロドス島 イアリュソスの丘
★聖ヨハネ騎士団 騎士団長の館
大久保正雄COPYRIGHT 2002.2.27
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2016年6月20日 (月)

エーゲ海の薔薇、ロドス島 皇帝ティベリウス、ロドスのアンドロニコス

Ookubomasao72Ookubomasao71Ookubomasao85大久保正雄『地中海紀行』第26回
エーゲ海の薔薇、ロドス島 皇帝ティベリウス、ロドスのアンドロニコス

空と海と光が溶けあう、海のほとり、
光と薔薇の島、ロドス。
糸杉にかこまれた時間の回廊。
エーゲ海の微風が吹く、咲き亂れる花の島。

32歳で夭折した、アレクサンドロスが遺言を殘した島。
プトレマイオス1世が、攻城王デメトリオスから守った島。
カエサルが弁論術を学ぶためにローマから航海した島。
皇帝ティベリウスが隠遁。ロドスのアンドロニコス『アリストテレス全集』編集。
さまよえるヨハネ騎士団とともに、漂い流れ着いた、
洗礼者ヨハネの右手。失われた肉體。

英霊は、エーゲ海を漂い、精神のみが生きる。
肉體は精神の死を生き、精神は肉體の死を生きる。

*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』

■エーゲ海の薔薇 ロドス島
咲き亂れる花にみちた島ロドス。エーゲ海の樂園。ロドス島は、イオニア地方沿岸に浮かぶドデカニソス諸島のなかで最大の島であり、南に位置する。ロドスからイオニアの海岸が見える。ロドスの名の語源は不明であるが、ヘレニズム時代にロドスが発行した硬貨の表には太陽神ヘリオスが、裏には薔薇が刻まれ、ロドス人自身によって薔薇の島と考えられていた。薔薇はロドスのトレードマークである。ロドス陶器に薔薇が刻印され地中海の港に輸出された。太陽神ヘリオスはロドスの守護神である。ロドス島は、黒海、ビュザンティオン、地中海を結ぶ海上交易路、また地中海戰略上の拠点である。ロドス海商法が、エジプト、エーゲ海の島々、地中海の港にあまねく支配し、ロドス人の船が地中海世界に融通無礙に航海した榮光の時代が追憶される。
紀元前5世紀、サモス島のアテナイ海軍がリンドスとカミロスを海上から攻撃、紀元前3世紀、アンティゴノス朝マケドニアがロドスを包囲、16世紀、オスマン帝國がロドスを包囲、攻撃した島。古代のポリスと中世の城砦が空間を織り成す島である。

■地中海都市とゴシック都市
地中海都市
ギリシアの海、エーゲ海。地中海都市の舞台装置は、アクロポリスと列柱とアゴラ、回廊と中庭である。そして陽光が降りそそぐテラスである。アクロポリスの丘から、海が見える。光が降りそそぎ、大理石の白い神殿が輝く時、人間の尊厳が輝く。個の魂の存在の尊さ、精神の美しさが光り輝く。列柱に眞昼の影が深くなる時、有限なる人間の榮光が刻まれる。アゴラに人が集まり、人が語り合い、テラスで光をあびながら、食べる、言い爭う、愛する、競技することを樂しむ。
地中海都市は、無限に向かって開かれた都市である。海は自由への扉である。世界に向かって開かれた窓。一つのポリスから他のポリスへ、独裁政から民主政へ、この世に絶對的な國家はない。この世に絶對的な法律はない。法律は人間のために作られた束の間の約束に過ぎない。エーゲ海を旅するギリシア人は、ポリスは相對的なものに過ぎないことを知っている。冬、大地を耕す者は、夏、海を航海する。海を航海する者は、權力に抗し、自ら支配者たり得る。ギリシア人は「いかなる者の奴隷でもなく臣下でもない」(アイスキュロス)。地中海都市は精神の樂園である。
ゴシック都市
ゴシック都市の舞台装置は、尖塔とゴシック・アーチとヴォールトからなる。天を目ざして高く聳える塔は神の絶對的権威の象徴であり、僧侶は祈り、騎士は戰い、農夫は耕す。王は獨裁者として僧侶と官僚を用いて君臨する。ゴシック都市は、閉ざされた都市。王は、階層社会の頂に君臨し法律に従わず、神の権威の下に民衆を土地に釘づけにする。神が天上界に君臨するごとく、王は地上に統治する。
獨裁者の下に赴く者は、自由人であっても奴隷となる。ゴシック都市は監獄都市である。脱出不能の牢獄である。囚われた人間は、生きながら死ぬのである。ゴシック都市において、僧侶は権威を身に纏い、騎士は権力に従属し、民衆は隷属する。僧侶は、権威を身に纏い、名譽欲が強く執念深く學識はあるが、愛はない。有限な知識の庭を歩き回る禽獣である。創造はない閉ざされた権威の王國。いかに多くの知識を身に纏い、地位が高く名譽を身に受けても、愛と創造がなければ生きる価値はない。ゴシック都市は奴隷制の王國であり、ゴシック都市の城壁は奴隷を閉じ込める檻である。
だがロドスの城塞都市は海に開かれた都市である。

■ロドス 古代と中世が重なる街
ロドスの都市は美観を誇る。首都ロドスは、島の北端にあり新市街と旧市街からなる。マンドラキ港の波止場には三基の風車があり、港の入口には雌雄の鹿の石柱が立っている。此処にはかつてロドス島の守護神、太陽神ヘリオスの巨像が建っていたが、紀元前228年、大地震がロドスを襲い崩壊した。ロドスは、かつて蛇が多かったが、これを退治するため鹿を飼った。今も鹿の図案が陶器に用いられる。
旧市街は、堅牢な城壁で囲まれ、城門がある。北側に騎士の館の群があり、南側に市民の居住区域がある。聖ヨハネ騎士団が築いた海側の城門を入ると、騎士の館が建ちならぶ狭隘な騎士の通りがある。アフロディーテ神殿遺跡が残る。石畳の坂道を昇ると、オーヴェルニュ語族の館、イタリア語族の館、聖マリア教会、イギリス語族の館、ロドス考古学博物館となっているヨハネ騎士団病院、七ヶ国語族の館、がある。そして坂の頂上に14世紀に建てられた騎士団長の館が、アポロン神殿跡にある。
騎士団病院は、15世紀にローマ遺跡の上に建てられ、今、ロドス考古学博物館として用いられている。二階建回廊が中庭をめぐり、二階から緑の中庭が見下ろせる。ここには「ロドスのヴィーナス」がある。
旧市街、ソクラテス通りの頂上にスレイマニエ・モスクがあり、縦横に袋小路が走る。城塞都市は、迷路のように小路が張りめぐらされている。旅人は、空間をさまよい歩きながら、時の迷路に迷い込むのである。時計塔の上から旧市街全域が眺められる。旧市街は、城壁が囲み、騎士の館の群と市民の居住区域すべてを守る城塞都市であることがわかる。城壁の彼方には、青く美しい海が見える。地中海クルーズ、エーゲ海クルーズの巨大な客船が何隻も停泊している。木の下にはパラソルが広げられ、カフェテラスがある。広場で、犬が昼寝をしている。
ロドス市街の南西、丘の上にロドス・アクロポリスがあり、アポロン・ピュティオス神殿遺跡(紀元前5世紀)がある。その下に競技場がある。

■皇帝ティベリウス
紀元前75年、ユリウス・カエサル、モロンの息子弁論術教師アポロドロスに学ぶためにロドスに航海する。アポロドロスはキケロを教えたことがある。ブルートゥスも弁論術を學ぶために來た。紀元前6年、ティベリウス(第2代皇帝)はロドスに隠棲し哲學を學ぶために來た。また將軍ポンペイウスもロドスに來た。紀元57年リンドスの入江に、パウロが來島し、キリスト教を伝えた。

■ペリパトス派、ロドスのアンドロニコス『アリストテレス全集』
紀元前1世紀、ロドスのアンドロニコスは、アテナイのリュケイオンにて、「アリストテレス全集」を編纂する。ペリパトス派最後の学頭。ペリパトス派は、ロドス人が多い。紀元前321年アリストテレスの死以後、ロドスのエウデモスは、ロドスのパシクレスが書いた『形而上學』第一巻講義録を編集した。
ローマ時代以後、ロドスは歴史の舞台から姿を消す。1千年の時が流れ、1308年から1523年まで二百年間ヨハネ騎士団がロドス島を本拠地とし城塞都市を築いた。ロドスは、古代の神殿の上に中世の城塞都市と市街の迷路が融け込む、時の迷路である。
★参考文献
Herrman Diels,Walter “Kranz Die Fragmente der Vorsokratiker” 3 Bande,Berlin, 1953
内山勝利編『ソクラテス以前哲学者断片集』全6巻、岩波書店1996-1998
プルタルコス河野與一訳『プルタルコス英雄伝』岩波文庫
プルタルコス『プルタルコス英雄伝』「デメトリオス伝」「カエサル伝」「キケロ伝」「ブルートゥス伝」「ポンペイウス伝」
W.W.ターン角田有智子・中井義明訳『ヘレニズム文明』思索社1987
橋口倫介『十字軍騎士団』講談社学術文庫1994 pp.125-126
周藤芳幸・村田奈々子『ギリシアを知る事典』東京堂出版2000
 11.ロドスとヘレニズム時代の東地中海 pp.204-223
塩野七生『ロードス島攻防記』新潮社1985
ロレンス・ダレル土井亨訳『海のヴィーナスの思い出 ロドス・太陽神の島1945-1947』新評論1999
トゥキュディデス 久保正彰訳『戰史』岩波文庫1966-67
大久保正雄COPYRIGHT 2002.2.27
★リンドス、アクロポリス 光る海
★リンドス、アクロポリス アテナ神域
★リンドス、アクロポリス 

2016年6月17日 (金)

エーゲ海年代記 文明の十字路、エーゲ海

Ookubomasao71Ookubomasao72大久保正雄『地中海紀行』第23回
エーゲ海年代記 文明の十字路、エーゲ海

窓を開けると、エーゲ海が見える。
烈しい光が射してくる。
夢のように過ぎた美しい日々。愛は過ぎ去りし日の眞夏の輝き。
黄金の黄昏が忍びよる。あなたと歩いた黄昏の海。
星が輝く夜、エーゲ海の思い出。
神々に祈り、カスタリアの泉を飲む者は、再びギリシアに歸って來る。
エーゲ海の魂に觸れた者は、再びエーゲ海に歸って來る。

*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』

■文明の十字路 エーゲ海
エーゲ海は、アイガイアの海であり、多島海(arkhipelagos)と呼ばれ、400餘りの島々が浮かぶ。キュクラデス諸島、ドデカニサ諸島、ロドス島、クレタ島などの島々からなる。エジプト文明とアナトリア文明とギリシア文明を結ぶ、海上の十字路である。
ティレニア海はイタリアの海であり、エーゲ海はギリシアの海である。
エーゲ海文明は、ヨーロッパ最古の文明であり、ギリシア文明の濫觴である。

■エーゲ海年代記
紀元前3000年、エーゲ海に、青銅器時代が始まる。
クレタ島における初期クレタ(ミノア)文化が始まる。初期キュクラデス文化榮える。  紀元前2300年、東ヨーロッパより北方民族がギリシア(原ギリシア人)に侵入、初期ヘラディック(ギリシア)文化を生む。
紀元前1900年、中期クレタ文化、旧宮殿時代、始まる。ファイストス宮殿の円盤、作られる。
紀元前1700年、クレタ旧宮殿崩壊する。クノッソス、ファイストス、マリア、旧宮殿崩壊。後期クレタ文化、新宮殿時代、始まる。クノッソス宮殿フレスコ画、蛇女神像、牡牛のリュトン、線文字A、作られる。
紀元前1600年、ミュケナイ(アカイア人)擡頭する。ミュケナイ文明ペロポンネソス半島に起こる。ミュケナイ圓形墳墓A、黄金のマスク、作られる。
紀元前1450年、クレタ新宮殿崩壊する。クノッソス、ファイストス、マリア、新宮殿崩壊。ミュケナイ人(アカイア人)、クレタ島に進出する。
紀元前1380年、クノッソス宮殿(ミュケナイ支配下)、最終的に崩壊する。クノッソスに線文字B(ギリシア文字)文書あらわれる。  紀元前14世紀、ミュケナイ王朝、最盛期に達する。
紀元前1200年以降、ミュケナイ王宮崩壊する。ドーリス人が北方より侵入する。ミュケナイ文明滅びる。ギリシア、暗黒時代に入る。
地中海東地域、文明が崩壊する。エジプト新王國、ヒッタイト帝國滅びる。原因は未解明である。
紀元前1100年、ギリシア、鉄器時代始まる。
紀元前1000年-900年頃、アイオリス人、イオニア人、ドーリス人が小アジア、エーゲ海の島々に植民活動を行う。イオニア人、デロス島にアポロンの母レトの祭儀を齎す。  
紀元前900年、この頃暗黒時代終わる。ギリシア史の曙はじまる。
 ポリス社会成立、貴族政時代はじまる。幾何学様式陶器、作られる。
紀元前9世紀、ドーリス人、ロドス島に植民。リンドス、イアリュソス、カミロスに3大都市を築く。
紀元前776年、第1回オリュンピア祭競技會はじまる。オリュンピア、ゼウス祭礼。  
紀元前750年、この頃ホメロスの詩編『イリアス』成立。その半世紀後『オデュッセイア』成立。ギリシア人が地中海、黒海沿岸に植民都市を作り始める。大規模な植民活動を開始する。
紀元前700年、この頃ヘシオドス叙事詩『神統記』『仕事と日々』が作られる。  
紀元前667年、メガラ人(ドーリス人)、ボスポラス海峡の岬にビュザンティオンを建設する。
紀元前546年、イオニア地方ミレトス、自然哲學者タレス、アナクシマンドロス死ぬ。  
紀元前499年、イオニア諸都市ミレトスを中心に獨立を圖り、ペルシア帝國に反亂する。
紀元前494年、ペルシア帝國ダレイオス1世が、ミレトスを陥落、破壊する。ダレイオス1世、イオニア諸都市を征服。キオス、レスボス、テネドスを占領。
紀元前5世紀、ミレトスにミレトス人建築家ヒッポダモスが幾何学的形態の都市を建設。アテナイの港町ペイライエウス、トゥリオイに都市を設計。「ヒッポダモス、都市の幾何学的形態の創始者」(cf.アリストテレス『政治学』第2巻第8章)
紀元前408年、ロドス人、人工都市ロドスを建設する。三都市(リンドス、イアリュソス、カミロス)から、集住(シュノイキスモス)する。

■時を溯る旅
或る晩秋、私はイタリアを旅した。そして、フィレンツェ、イスタンブール、アテネへ、時を溯る旅を續けた。愛と復讐の大地ギリシア。地中海の光景ほど苦悩する魂を鎭める地はない。
2001年秋、私はギリシアを旅し、エーゲ海の島々へと飛行した。エーゲ海文明の源泉へ、ギリシア文化の濫觴へと溯る旅に出た。時の迷宮を溯る旅、知恵を愛する思想家の生きかたが生まれたエーゲ海への旅。
我が魂のオデュッセイアは、エーゲ海紀行へと旅立つ。
御手紙を頂いた人、励ましのことばを頂いた人、愛讀者のみなさま、有難うございました。心から感謝をささげます。
★参考文献
カール・ケレーニイ高橋英夫訳『ギリシアの神話 神々の時代』中央公論社1974
ヘシオドス廣河洋一訳『神統記』岩波文庫1984
中村善也、中務哲郎『ギリシア神話』岩波書店1981
ディオゲネス・ラエルティオス加来彰俊訳『ギリシア哲学者列伝』3巻、岩波文庫1984-1994
ジャン・シァルボノー岡谷公二訳『ギリシア・アルカイク美術』人類の美術1新潮社1972
ジャン・シァルボノー村田数之介訳『ギリシア・クラシック美術 前480-330』人類の美術3新潮社1973
周藤芳幸『図説ギリシア エーゲ海文明の歴史を訪ねて』河出書房新社1997
ジル・ラプージュ巌谷國士訳『ユートピアと文明 輝く都市・虚無の都市』紀伊国屋書店1988
大久保正雄『魂の美學 プラトンの対話編における美の探究』「上智大学哲学論集」第22号、上智大学1993
★リンドス、アクロポリス アテナ神域
★リンドス、アクロポリス 光る海
★エーゲ海の微笑み エーゲ海航空スチュワーデス
大久保正雄COPYRIGHT2001.12.26