上村松園と美人画の世界・・・肉体の美と叡智の美
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第208回
新春の夕暮れ、山種美術館に行く。美しいものが美しいのは何故か。美人画の根拠について考える。上村松園「序の舞」(1936)は、近代美人画の頂点といわれる『東西美人画の名作≪序の舞』への系譜』2018藝大美術館。上村松園の美人画は、喜多川歌麿の系譜であると言われる。喜多川歌麿を超える美人画はないのか。上村松園には、円山応挙の影響を受けた作品がある。円山応挙『江口君図』1794、円山応挙『楚蓮香図』1794、上村松園『楚蓮香之図』1924。
1、美とは何か。
生成界の美、叡智界の美。無色界、色界、欲界、天人の美。
「美とは何か」という問いは、プラトン『ヒッピアスMajor』を想起する。ソクラテスはソフィストを問い詰め、ヒッピアスは「何が美しいか」を語る、例えば<美しい乙女><黄金><美しい神々>。ソクラテスは「何が美しいか」ではなく「美とは何か」を問うているのだという。<視覚と聴覚を通じての快楽>を吟味し論駁する。結局アポリアに陥り、無知を宣告して、対話は終了する。ソクラテス<視覚と聴覚を通じての快楽>が美しいのは、このゆえに、つまりそれが視覚を通じるがゆえにではないだろうからね。なぜといって、もしこのことがそれが美しくあることの原因だとしたら、もう一方の、聴覚を通じての快楽のほうは、けっして美しくはないだろうからだ。」(299E) 『ヒッピアスMajor』
魂の美を描く美人画が存在する。村上華岳『裸婦図』(1920)。菱田春草『水鏡』(1897)『王昭君』(1902)。横山大観『流燈』(1909)。
2、村上華岳『裸婦図』(1920)
村上華岳『裸婦図』、華岳は久遠の美を目ざした。アジャンタ石窟、『モナリザ』の影響があると、美術史家は説明する。村上華岳(明治21年1888—昭和14年1939)。山水と仏画を主題とした作品を多く描き、東西の様式を吸収し、宗教的境地から生れる芸術性の高い、神秘的な日本画を探求した。51歳で死す。村上華岳の師の一人は、竹内栖鳳(1864-1942)である。
3、菱田春草、東京美術学校事件、急進派として懲戒免職。美人画『王昭君』、幻の『雨中美人』
明治31年1898、東京美術学校事件で、急進派として懲戒免職。菱田春草『王昭君』は、悲劇の美女の姿、美しい魂を描く。菱田春草『水鏡』(1897)天人の衰えを水鏡に表現する。菱田春草『黒き猫』(1910)は、『雨中美人』(1910)、六曲一双を描いていたが完成せず、代わりに黒き猫を出品した。翌年、37歳で死す。菱田春草(1874-1911)
4、村上華岳の師、竹内栖鳳(1864-1942)
竹内栖鳳『飛天舞楽図』草稿1911(東本願寺蔵)。栖鳳は、天女を描くことに腐心した。「竹内栖鳳『散華』1914年(大正3)絹本着色 6曲1隻(京都市美術館蔵)。東本願寺から大師堂門の天井絵の依頼を受けた栖鳳は、その題材に飛翔する天女を選びます。この構想は実現しなかったのですが、《散華》は、その折に試作として制作されたものです。(山崎妙子)山種美術館」
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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★参考文献
図録『日本美術院創立100周年記念 日本美術の軌跡』東京国立博物館1998
村上華岳「裸婦図」・・・魂の見えざる美
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上村松園展・・・美人画の系譜
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村上華岳「裸婦図」・・・崇高なヌード
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上村松園、美人画の粋・・・夏の緑陰の午後
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竹内栖鳳展 近代日本画の巨人・・・哀愁のイタリア、『ベニスの月』
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東西美人画の名作《序の舞》への系譜・・・夢みる若い女、樹下美人
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黒き猫は、37歳で病で亡くなった菱田春草の孤高な姿を思い浮かべる。
細川家の至宝、珠玉の永青文庫コレクション・・・織田信長「天下布武」と菱田春草「黒き猫」
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「円山応挙から近代京都画壇へ」藝大美術館・・・円山応挙「松に孔雀図」大乗寺
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「大浮世絵展」・・・反骨の絵師、歌麿。不朽の名作『名所江戸百景』、奇想の絵師
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上村松園と美人画の世界、山種美術館、1月3日(金)~3月1日(日)
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