北斎とジャポニスム、国立西洋美術館・・・『富嶽三十六景』『北斎漫画』
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第128回
枯れ葉舞う秋、嵐の森を歩いて美術館に行く。葛飾北斎(1760-1849)は、印象派の画家、モネ、ゴッホ、スーラ、アールヌーヴォーの藝術家らに影響を与えた。絵手本『北斎漫画』(全十五編)は、象徴主義のギュスターヴ・モローも所有していた。大胆な構図、花鳥画、名所絵、美人画の及ぶ画題が、印象派の画家たちに学ばれた。日本美術、浮世絵は、1850年代から外交官が来日し、1867年のパリ万博で広められ、ジャポニスムが起きる。
『富嶽三十六景』「神奈川沖浪裏」(天保元-4年(1830-33))は、ドビュッシー交響詩『海』(1905)など、世界中に影響を与えた。
『江戸の誘惑』で北斎を見たのを思い出す。北斎の最高傑作、『鳳凰図屏風』『李白観瀑図』は、ボストン美術館所蔵肉筆浮世絵展『江戸の誘惑』で展示された。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
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葛飾北斎と波瀾の人生
葛飾北斎、三十歳で貧困、苦節四十年。引越し九十三回、画号30回改名。九十歳で亡くなるまで絵画を追求する。
葛飾北斎は、十九歳で勝川春章に弟子入り、翌安永八年〈一七七九)春朗の名で役者似顔絵を発表、二十歳で浮世絵師になる。鳴かず飛ばず。三十歳で貧困、他流派に学ぶ。
葛飾北斎、苦節四十年。72歳で『富嶽三十六景』「神奈川沖浪裏」。75歳で傑作『鳳凰図屏風』を描く。
葛飾北斎と波
北斎は、雌伏の時代、波を描いた。『江ノ島春望』大英博物館蔵、北斎44歳の時、『賀奈川沖本杢之図』1803(享和3)年。北斎46歳で描いた『おしおくりはとうつうせんのづ』1805(文化2)年。
北斎は、六十歳で、脳卒中になり、柚子を食し自分で治療する。
北斎『諸国瀧巡り』(天保4年から天保8年(1833-1837))は、水の本質を探求した。
葛飾北斎、北斎辰政の意味
「葛飾北斎」を名乗っていたのは曲亭馬琴と組んだ一時期で『新編水滸画伝』『近世怪談霜夜之星』『椿説弓張月』などの作品を発表、馬琴とともにその名を一躍不動のものとした。北斎は何度も改名しているが「北斎辰政」という名前は大切にしていた。「北辰」は北極星を意味する。
画狂老人卍、七十五歳の北斎
天保五(一八三四)年から、先生は再び名前を変え、「画狂老人卍」という号を用いる。七十五歳の時に、『富嶽百景』「海上の不二」、『鳳凰図屏風』(1834)を描く。
天保の改革(1830~44)で贅沢禁止令、北斎は、貧困に陥る。
北斎は、三女葛飾応為とともに、83歳から89歳まで4回、小布施に行き高井鴻山の下に行く。『祭屋台天井絵『怒涛図』男浪、女浪』(小布施町上町自治会蔵)を描く。
北斎、九十歳
北斎は、九十歳で『富士越龍図』『李白観瀑図』1849年を描く。「齢九十歳 画狂老人卍筆」と記されている。
北斎、最期の言葉は「天我をして五年後の命を保ためしば真正の画工となるを得べし」。嘉永二(一八四九)年四月十八日、没す。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『北斎は天翔ける。美の天に向かって 不死鳥の画家、北斎』2015
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美は真であり、真は美である。これは、地上にて汝の知る一切であり、知るべきすべてである。
美しい夕暮れ。美しい魂に、幸運の女神が舞い降りる。美しい守護霊が救う。美しい魂は、輝く天の仕事をなす。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
大久保正雄『藝術と運命の戦い 藝術家と運命の女』
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展示作品の一部
葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」天保元-4年(1830-33)頃 横大判錦絵 オーストリア応用美術館、ウィーン
葛飾北斎『北斎漫画』十三編(部分)1849 浦上蒼穹堂
エミール・ガレ『双耳鉢 鯉』1878
葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷」天保元-4年(1830-33)頃 横大判錦絵 ミネアポリス美術館
クロード・モネ「陽を浴びるポプラ並木」1891年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館
葛飾北斎『北斎漫画』十一編(部分) 刊年不詳 浦上蒼穹堂
エドガー・ドガ「踊り子たち、ピンクと緑」1894年 パステル、紙(ボード裏 打) 66 x 47cm 吉野石膏株式会社
葛飾北斎「冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二」天保元-4年(1830-33)頃 横大判錦絵 オーストリア応用美術館
ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山」1886-87年 油彩、カンヴァス フィリップス・コレクション、ワシントンD.C
葛飾北斎「牡丹に蝶」天保2-4年(1831-33)頃 横大判錦絵 ミネアポリス美術館
フィンセント・ファン・ゴッホ「ばら」1889年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館
葛飾北斎「冨嶽三十六景 駿州江尻」天保元-4年(1830-33)頃 横大判錦絵 オーストリア応用美術館、ウィーン
カミーユ・ピサロ「モンフーコーの冬の池、雪の効果」1875年 油彩、カンヴァス 公益財団法人 吉野石膏美術振興財団(山形美術館寄託)
葛飾北斎「おしをくりはとうつうせんのづ」文化初期(1804-07)頃 横中判錦絵 名古屋市博物館
ジョルジュ・スーラ「とがったオック岬、グランカン」1885年 油彩、カンヴァス テート、ロンドン
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19世紀後半、日本の美術が、西洋で新しい表現を求める芸術家たちを魅了し、“ジャポニスム”という現象が生まれました。なかでも最も注目されたのが、天才浮世絵師・葛飾北斎(1760-1849)。その影響は、モネやドガら印象派の画家をはじめとして欧米の全域にわたり、絵画、版画、彫刻、ポスター、装飾工芸などあらゆる分野に及びました。
本展は西洋近代芸術の展開を“北斎とジャポニスム”という観点から編み直す、日本発・世界初の展覧会です。国内外の美術館や個人コレクターが所蔵するモネ、ドガ、セザンヌ、ゴーガンをふくめた西洋の名作約220点と、北斎の錦絵約40点、版本約70点の計約110点(出品点数は予定、会期中展示替えあり)を比較しながら展示します。北斎という異文化との出会いによって生み出された西洋美術の傑作の数々を堪能しながら、西洋の芸術家の眼を通して北斎の新たな魅力も感じていただけることでしょう。
http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2017hokusai.html
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★北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃、国立西洋美術館
2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日)
*ボストン美術館所蔵肉筆浮世絵展『江戸の誘惑』(2006)
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