ロマン派詩人 地中海の旅 美への旅
大久保正雄「旅する哲学者 美への旅」第77回ロマン派詩人と地中海
ロマン派詩人 地中海の旅 美への旅
美は真であり、真は美である。汝、生涯に知るべきことはそれがすべてである。
はちみつ色の夕暮れ。黄昏の丘、黄昏の森、迷宮図書館、知の神殿。瞬間のなかに永遠がある。微小な世界に、宇宙がある。一即一切、一切即一(『華厳経』)。
藝術家、思想家たちは、地中海へ旅をした。燦めきの海、エーゲ海の旅は、美しい思想を湧き起こす。美しい思いは美しい人を引き寄せる。作者は、作品である。最高の藝術作品は美しい人生である。エフェソスのアルテミス神殿に佇むと、古代の哲学がよみがえる。ヘラクレイトスの思想、宇宙の回帰的時間。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
紀元前6世紀、ピュタゴラスは、サモス島からイタリアのクロトンへ旅した。紀元前4世紀、プラトンは、イタリアへ旅した。
ローマ皇帝ハドリアヌスは、ギリシアに魅せられ、地中海を旅した。15世紀、ルネサンス人は、ギリシアとローマ帝国の藝術に憧れた。愛の女神ヴィーナスの国。
■ロマン派の詩の花
一粒の砂に世界を見る。一輪の野の花に天国を見る。掌に無限を掴み、一時のうちに永遠を感じる。ウィリアム・ブレイク『無垢の予兆』William Blake,Auguries of Innocence
To see a world in a grain of sand. And a heaven in a wild flower, Hold infinity in the palm of your hand. And eternity in an hour.
彼女は、美に包まれて歩く。雲影もない国、星ひかる、夜空のように、漆黒の煌めくもの、善きものはことごとく、彼女の姿と瞳のなかにある。
バイロン『彼女は、美に包まれて歩く』George Gordon Byron,She walks in beauty.
美は真であり、真は美である。汝が生涯に知るべきことはそれがすべてである。
キーツ『ギリシャの古壺のオード』John Keats, Ode on a Grecian Urn
Beauty is truth, truth beauty, That all ye know in life, all ye need to know.
低く暮らし、高く思う。ウィリアム・ワーズワース。
Plain living and high thinking, William Wordsworth, London 1802
孫崎享 若い世代へ“低く暮らし、高く思う”ワーズワース。若い人の目標はより高い地位、物質的に豊かな生活。https://t.co/skJZT7SehW
■ロマン派詩人と地中海、異界への旅
ウィリアム・ブレイク(William Blake,1757-1827)。ロマン派の嚆矢。幻視力によって、人間の魂の姿を描く詩人。自由を抑圧する制度に反抗し、魂の解放を歌う。『無垢の歌』(The Songs of Innocence, 1789年)、『無垢と経験の歌』(The Songs of Innocence and of Experience, 1794年)、『天国と地獄の結婚』(The Marriage of Heaven and Hell, 1790年から1793年頃)
ロマン主義の詩人バイロン(George Gordon Byron,1788-1824)は、イタリア、ギリシアに憧れ、『チャイルド・ハロルドの遍歴』(Childe Harold's Pilgrimage, 1812)を書き、1823年ギリシア独立戦争へ身を投じる。ギリシアで、36歳で亡くなる。
詩人シェリー(Percy Bysshe Shelley,1792-1822)は、ギリシアに憬れ、1818年、詩人シェリーはメアリーを連れてイタリアに赴き、フィレンツェ、ピサ、ナポリ、ローマ各地を転々としながらプラトンの『饗宴』を翻訳し、『縛を解かれたプロメテウス』(Prometheus Unbound)を執筆した。難破して、地中海で死んだ。享年30歳。
詩人ジョン・キーツ(John Keats, 1795-1821)。1821年25歳の若さで死ぬ。ローマのスペイン広場の近くに住み、そこで結核で死ぬ。友人シェリーは挽歌「アドネイス」を書いてキーツの死を悼む。バイロンは、キーツとは余り深い交友はなかったが、その才能を高く評価していた。1819年、『秋に寄せて』(To Autumn)、『ギリシャの古壺のオード』(Ode on a Grecian Urn)代表作オードが次々と発表された。
ドイツ古典主義詩人アウグスト・フォン・プラーテン(August Graf von Platen-Hallermunde1796-1835)は、バイエルン出身。イタリアを永住の地と定め、シチリアのシラクサで死んだ。詩集『ベネチアのソネット』(1825)『トリスタンとイゾルデ』(1825)を残した。ロマン主義的詩である。
プラーテン『トリスタン』(生田春月訳)「美はしきもの見し人は、はや死の手にぞわたされつ、世のいそしみにかなはねば、されど死を見てふるふべし、美はしきもの見し人は。
愛の痛みは果てもなし、この世におもひをかなへんと、望むはひとり痴者ぞかし、美の矢にあたりしその人に、愛の痛みは果てもなし。
げに泉のごとも涸れはてん、ひと息ごとに毒を吸ひ、ひと花ごとに死を嗅がむ、美はしきもの見し人は、げに泉のごとも涸れはてん」。
■ロマン主義
ロマン派は、真の愛の探求、自由奔放の追求、階級社会に対する抵抗、理想主義の探求が根源にある。シェイクスピア(William Shakespeare,1564-1616)は、愛の探求、自由奔放の追求を、『ロミオとジュリエット』他で、表現した。(Cf.小田島雄志『シェイクスピアの人間学』)
イギリスのロマン主義詩人は、ウィリアム・ブレイク(William Blake,1757-1827)の詩を萌芽とする。ウィリアム・ワーズワース、バイロン、シェリー、キーツによって展開される。
ウィリアム・ワーズワース(Sir William Wordsworth, 1770- 1850)、イギリスのロマン派詩人。湖水地方をこよなく愛し、純真であると共に情熱を秘めた自然讃美詩を書いた。だが晩年、体制化した。ナポレオン戦争後、ジョージ・ゴードン・バイロン、パーシー・ビッシュ・シェリー、ジョン・キーツらは先鋭化しイギリスを去ってスイス・イタリアに移り、理想主義を掲げた。
■藝術家たちの地中海への旅
地中海は、藝術家、思想家たちを魅了してきた。
燦めきの海、エーゲ海の旅は、美しい思想を思い出す。美しい思いは美しい人を引き寄せる。最高の藝術作品は美しい人生である。エフェソスの幻のアルテミス神殿に佇むと、ヘラクレイトスの思想を思い出す。
地中海は、知恵と愛、幸福、美の国である。愛の女神ヴィーナスの国である。
哲学者たち、藝術家たちは何を求めて旅したのか。藝術家たちが地中海を旅したのは何故か。
17世紀、画家クロード・ロラン(Ciaude Lorrain,1600-1682)はイタリアで生涯を終えた。18世紀、ギャヴィン・ハミルトン(1723-98)は、イタリアと古代彫刻に魅せられイタリアで生涯を終えた。フランス革命の画家たち、ダヴィッド、アングル、フランソワ・ジェラールは、イタリアに魅せられ旅した。
ゲーテは、1786年イタリアに旅立ち、『イタリア紀行』(Italienische Reise,1816-1817)を書いた。スタンダールは、イタリアに憧れ、1799年、陸軍少尉としてイタリア遠征し、『イタリア紀行 ローマ、ナポリ、フィレンツェ』("Rome, Naples et Florence",1817)を書いた。スタンダールは、軍人となっても馬に乗る事も剣を振るう事も出来ず女遊びと観劇に現をぬかした。『恋愛論』("De l'amour", 1822)を書き、第一の結晶作用、情熱恋愛、恋愛至上主義、「己の全存在を賭けての愛」を主張した。
リルケ(Rilke,1875-1926)は、アドリア海に臨む孤城、ドゥイノの館に滞在し、イタリア、エジプト、スペインを旅し『ドゥイノの悲歌』(1923)『オルフォイスへのソネット』(1923)を書いた。
ニーチェ(Nietzsche,1844-1900)は、1879年から1889年まで様々な都市を旅し、哲学者として生活した。夏はスイス、サンモリッツ近郊ジルス・マリア、冬はイタリアのジェノヴァ、ラパッロ、トリノ、フランスのニースで過ごした。『ツァラトゥストラかく語りき』(Also sprach Zarathustra, 1883-91)、『善悪の彼岸』(Jenseits von Gut und Böse, 1886)、哲学書はこの10年間に書かれた。
ギャヴィン・ハミルトン(Gavin Hamilton, 1723-98) 。新古典主義の画家。1740年代グラスゴー大学とローマで学ぶ、1756年ローマにもどり、イタリアで生涯を終えた。イタリアに魅せられ、40年イタリアに暮らし、古代彫刻「アルテミス」「パリス」などローマ彫刻を発掘した。ギャヴィン・ハミルトンは、1785年、レオナルド「岩窟の聖母」the National Gallery, London, of Leonardo da Vinci's Virgin of the Rocksを購入し、ロンドンへ送った。
「トロイアの王子パリスに、スパルタのヘレネを引き合わせる愛の女神ヴィーナス」の絵を2度、描いている。「トロイアの王子パリスに、スパルタのヘレネを引き合わせる愛の女神ヴィーナス」パリスの審判、トロイア戦争の原因の有名な場面である。
"Venus giving Paris Helen as his wife" ,by Hamilton (1782-1784), held by the Palazzo Braschi, Rome
"Vénus présentant Hélène à Pâris", 1777-80, Musée du Louvre
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ヴェネツィア 迷宮都市 美への旅
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地中海 四千年のものがたり・・・藝術家たちの地中海への旅
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★Aegean Sea,
★George Gordon Byron,
★
★参考文献
寿岳文章ウィリアム・ブレイク『無心の歌、有心の歌』角川文庫1999
阿部知二『バイロン詩集』新潮文庫1951
上田和夫『シェリー詩集』新潮文庫
『ワーズワース詩集』岩波文庫
小田島雄志『小田島雄志のシェイクスピア遊学』白水Uブックス1982
小田島雄志『シェイクスピア全集』白水Uブックス
小田島雄志『シェイクスピアの人間学』2007
大久保正雄2016年8月10日
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コメント
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I really enjoy the blog article.Really looking forward to read more. Fantastic. bcagbeaadfbf
投稿: Johnb464 | 2016年8月10日 (水) 16時11分
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投稿: ookubomasao | 2016年8月15日 (月) 18時32分
ありがとうございます。『地中海のほとり』『美への旅 旅する哲学者』こちらも、よろしくお願いします。大久保正雄
投稿: 大久保正雄 | 2016年8月17日 (水) 12時02分