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2016年8月13日 (土)

宮澤賢治 光輝く天の仕事 美への旅

Van_gogh_starry_night宮澤賢治 光輝く天の仕事 美への旅
大久保正雄「旅する哲学者 美への旅」第80回宮澤賢治 光輝く天の仕事P1—7

はちみつ色の夕暮れ、黄昏の丘、黄昏の森を歩き、迷宮図書館に行く。糸杉の丘、知の神殿。美しい魂は、光輝く天の仕事をなす。
美しい天使が舞い下りる。美しい天使が、あなたを救う。
瞬間のなかに永遠がある。微小な世界に、宇宙がある。因陀羅の網をひろげ三昧する。一即一切、一切即一*。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』

宮澤賢治の世界は、生死の境の物語である。幽明界の境、他界への憧憬、食物連鎖の競走界からの逸脱、他界からの訪問者、天の童子のこの世への降臨、この世に生きる悲傷がある。宮澤賢治は、この世で人のために尽くし、人を救おうとしたが、この世に生きることに苦しんだ。人の苦しみ、心の痛みを体感する人である。知恵に至る旅の途中の幻想の城、法へ至る化城(『法華経』化城喩品)なのか。
天界からこの世に降りてきた魂。天の童子。
生きとし生けるものの悲しみを聞き苦しみを取り除く観世音菩薩なのだろう。

宮澤賢治の世界は、宇宙意志の芽生えといわれるが、如来の世界と一体化したのか。
この世は、法界体性智の現れなのか。
宇宙意志の現れというには、この世はあまりに残酷である。
生命界、人間界、いきものは競争と殺戮に満ちて、生きていくことは苦しい。
「かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。」『よだかの星』
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』

■宮澤賢治、年代記
1896—1908 幼年期、賢治12歳
1909—1914 盛岡中学時代、賢治18歳
1915—1920 盛岡高等農林学校時代、賢治24歳
★1917年、同人雑誌『アザリア』第1号、発刊。同人12人。21歳。
1921—1925 家出上京、農林学校教師時代、賢治29歳
★1924年、『春と修羅』自費出版、イーハトブ童話『注文の多い料理店』刊。28歳。
 ★『銀河鉄道の夜』初稿、書く。
 ★1925「告別」春と修羅、第2集
1926—1928 羅須地人協会時代、賢治30—32歳
1902—1932 闘病、東北砕石工場技師時代。喀血。賢治36歳で死去。

■宮澤賢治のことば
★『春と修羅』(mental sketch modified)
れいろうの天の海には、聖玻璃の風が行き交ひ
★『よだかの星』
自分のからだがいま燐の火のような美しい光になって、しずかに燃えている。
「かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。」
★『注文の多い料理店』序 
きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をたべることができます。
あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。
『春と修羅・序』わたくしといふ現象は
假定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
★『雁の童子』無上菩提
★『雁の童子』可愛らしい天の子供、天の眷属、天の童子、沙車大寺
流沙の南の、楊で囲まれた小さな泉で、私は、いった麦 粉を水にといて、昼の食事をして居りました。
そのとき次々に雁が地面に落ちて来て燃えました。
私共は天の眷属でございます。罪があってたゞいままで雁の形を 受けて居りました。只今報ひを果しました。私共は天に帰ります。
沙車の町はづれの砂の中から、古い沙車大寺の あとが掘り出されたとのことでございました。一つの壁がまだその まゝで見附けられ、そこには三人の天童子が描かれ、ことにその一 人はまるで生きたやうだとみんなが評判しましたさうです。
(勿論だ。この人の大きな旅では、自分だけひとり遠い光の空へ飛び去ることはいけないのだ。)
そしてお二人は町の広場を通り抜けて、だんだん郊外に来られま した。沙がずうっとひろがって居りました。その砂が一ところ深く 掘られて、沢山の人がその中に立ってございました。お二人も下り て行かれたのです。そこに古い一つの壁がありました。色はあせて はゐましたが、三人の天の童子たちがかいてございました。須利耶 さまは思わずどきっとなりました。
『業の花びら』ああ誰か来てわたくしに云へ 億の巨匠が並んで生まれ しかも互いに相犯さない 明るい世界は必ず来ると
★『学者アラムハルドの見た着物』
人はまことを求める。真理を求める。ほんとうの道を求めるのだ。人が道を求めないでいられないことはちょうど鳥の飛ばないでいられないとおんなじだ。おまえたちはよくおぼえなければいけない。人は善を愛し道を求めないでいられない。それが人の性質だ。これをおまえたちは堅くおぼえてあとでも決して忘れてはいけない。おまえたちはみなこれから人生という非常なけわしいみちをあるかなければならない。たとえばそれは葱嶺の氷や辛度の流れや流沙の火やでいっぱいなようなものだ。そのどこを通るときも決して今の二つを忘れてはいけない。それはおまえたちをまもる。それはいつもおまえたちを教える。決して忘れてはいけない。
★『インドラの網』于閻大寺の壁画のなかの子供、天の子供
(とうとうまぎれ込んだ、人の世界のツェラ高原の空間から天の空間へふっとまぎれこんだのだ。)私は胸を躍らせながら斯う思いました。
ふと私は私の前に三人の天の子供らを見ました。それはみな霜を織ったような羅をつけすきとおる沓をはき私の前の水際に立ってしきりに東の空をのぞみ太陽の昇るのを待っているようでした。その東の空はもう白く燃えていました。私は天の子供らのひだのつけようからそのガンダーラ系統なのを知りました。又そのたしかにコウタン大寺の廃趾から発掘された壁画の中の三人なことを知りました。私はしずかにそっちへ進み愕かさないようにごく声低く挨拶しました。
『銀河鉄道の夜』
けれどもほんとうのさいわいとは、
「けれども誰だってほんたうにいいことをしたらいちばん幸せなんだね。」(「銀河鉄道の夜」より、カムパネルラの言葉)
★『告別』『春と修羅』第2集 かゞやく天の仕事もするだらう
そらいっぱいの
光でできたパイプオルガンを弾くがいゝ
すべての才や力や材といふものは
ひとにとゞまるものでない
ひとさへひとにとゞまらぬ
*『書簡』
「宇宙意志があってあらゆる生物をほんたうの幸福に齎したいと考えているものか」「あらゆる迷誤をはなれてあらゆる生物を究竟の幸福にいたらしめようとしている」(書簡『校本宮澤賢治全集』第十三巻453—454)

■星空の旅人、星空の案内人
地平線、地平線 灰色はがねの天末で 銀河のはじが、茫乎とけむる
■「星月夜の糸杉」
賢治は『白樺』にて「星月夜の糸杉」をみたらしい。The drawing Cypresses in Starry Night
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Starry_Night
■世界観の展開
『法華経』から、因陀羅の網、一即一切、一切即一(『華厳経』)へ。
■『春と修羅』
告別、宮澤賢治、春と修羅、第2集
三八四  告別
一九二五、一〇、二五、

おまへのバスの三連音が
どんなぐあひに鳴ってゐたかを
おそらくおまへはわかってゐまい
その純朴さ希みに充ちたたのしさは
ほとんどおれを草葉のやうに顫はせた
もしもおまへがそれらの音の特性や
立派な無数の順列を
はっきり知って自由にいつでも使へるならば
おまへは辛くてそしてかゞやく天の仕事もするだらう
泰西著名の楽人たちが
幼齢弦や鍵器をとって
すでに一家をなしたがやうに
おまへはそのころ
この国にある皮革の鼓器と
竹でつくった管くゎんとをとった
けれどもいまごろちゃうどおまへの年ごろで
おまへの素質と力をもってゐるものは
町と村との一万人のなかになら
おそらく五人はあるだらう
それらのひとのどの人もまたどのひとも
五年のあひだにそれを大抵無くすのだ
生活のためにけづられたり
自分でそれをなくすのだ
すべての才や力や材といふものは
ひとにとゞまるものでない
ひとさへひとにとゞまらぬ
云はなかったが、
おれは四月はもう学校に居ないのだ
恐らく暗くけはしいみちをあるくだらう
そのあとでおまへのいまのちからがにぶり
きれいな音の正しい調子とその明るさを失って
ふたたび回復できないならば
おれはおまへをもう見ない
なぜならおれは
すこしぐらゐの仕事ができて
そいつに腰をかけてるやうな
そんな多数をいちばんいやにおもふのだ
もしもおまへが
よくきいてくれ
ひとりのやさしい娘をおもふやうになるそのとき
おまへに無数の影と光の像があらはれる
おまへはそれを音にするのだ
みんなが町で暮したり
一日あそんでゐるときに
おまへはひとりであの石原の草を刈る
そのさびしさでおまへは音をつくるのだ
多くの侮辱や窮乏の
それらを噛んで歌ふのだ
もしも楽器がなかったら
いゝかおまへはおれの弟子なのだ
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光でできたパイプオルガンを弾くがいゝ
「宮沢賢治全集1」ちくま文庫、筑摩書房
   1986(昭和61)年2月26日第1刷発行

春と修羅(mental sketch modified)宮澤賢治

心象のはひいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲模様
(正午の管楽よりもしげく
 琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(風景はなみだにゆすれ)
砕ける雲の眼路をかぎり
 れいろうの天の海には
  聖玻璃の風が行き交ひ
   ZYPRESSEN 春のいちれつ
    くろぐろと光素(エーテル)を吸ひ
     その暗い脚並からは
      天山の雪の稜さへひかるのに
      (かげろふの波と白い偏光)
      まことのことばはうしなはれ
     雲はちぎれてそらをとぶ
    ああかがやきの四月の底を
   はぎしり燃えてゆききする
  おれはひとりの修羅なのだ
  (玉髄の雲がながれて
   どこで啼くその春の鳥)
  日輪青くかげろへば
    修羅は樹林に交響し
     陥りくらむ天の椀から
      黒い木の群落が延び
       その枝はかなしくしげり
      すべて二重の風景を
     喪神[そうしん]の森の梢から
    ひらめいてとびたつからす
    (気層いよいよすみわたり
     ひのきもしんと天に立つころ)
草地の黄金をすぎてくるもの
ことなくひとのかたちのもの
けらをまとひおれを見るその農夫
ほんたうにおれが見えるのか
まばゆい気圏の海のそこに
(かなしみは青々ふかく)
ZYPRESSEN しづかにゆすれ
鳥はまた青ぞらを截[き]る
(まことのことばはここになく
 修羅のなみだはつちにふる)

あたらしくそらに息つけば
ほの白く肺はちぢまり
(このからだそらのみぢんにちらばれ)
いてふのこずゑまたひかり
ZYPRESSEN いよいよ黒く
雲の火ばなは降りそそぐ
★★
★Gogh, Starry night, 1889, Metropolitan Museum
★ゴッホ『星月夜』1889年ニューヨーク・メトロポリタン美術館
★参考文献
天澤退二郎、入澤康夫編『校本宮澤賢治全集』筑摩書房
佐藤泰正編『宮澤賢治必携』『別冊国文学 No.6』学燈社1980
『国文学 解釈と教材の研究 特集 宮沢賢治を読むための研究事典』学燈社1989年
『国文学 解釈と教材の研究 臨時増刊号 宮沢賢治の全童話を読む』学燈社2003年
天澤退二郎編『宮澤賢治万華鏡』新潮文庫
天澤退二郎編『銀河鉄道の夜』新潮文庫
天澤退二郎『《宮澤賢治》論』筑摩書房1976
天澤退二郎『宮沢賢治の彼方へ』思潮社1968ちくま学芸文庫
山内修『宮澤賢治 年表作家読本』河出書房新社P101
「星月夜の糸杉」The drawing Cypresses in Starry Night
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Starry_Night
原子朗『新宮沢賢治語彙辞典』東京書籍1999
大久保正雄 2016年8月12日

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