バロック カラヴァッジョ、光と闇の巨匠たち
大久保正雄「旅する哲学者 美への旅」第76回バロック 光と闇の巨匠たち
バロック カラヴァッジョ、光と闇の巨匠たち
黄昏の丘に上り、黄昏の森を歩く。森の中の迷宮図書館で考える。『香水壜』のような図書館。『夕暮れの諧調』を暗唱する。
春爛漫のイタリアを旅した日々。サンジミニャーノの塔。美しき残像を思い出す。糸杉の立つ丘を上って行く。フィエーゾレ、トスカーナのヴィラ。灼熱のローマ、寺院の闇にひそむ、カラヴァッジョの光と闇。
いかさま、殺人、自己陶酔、朽ち果てる果実。カラヴァッジョは、現実を刻銘に描いた。
美しい娼婦たち。カラヴァッジョは、3人の娼婦たちを聖母として描いた。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
ローマのバルベリーニ宮殿(Palazzo Barberini)で見た、カラヴァッジョ「ホロフェルネスの首を切るユディト」(1598) を思い出す。降ってくる闇。光と闇の強烈な対比。闇の中に光る蝋燭。エロティックで暴力的なバロック趣味の様式。悪と善、肉体と魂。対立の極致に現れる人間の美醜。
聖なるものが、俗なるものによって、弑逆される。一般役人によって殺害される聖者。★カラヴァッジョ『洗礼者ヨハネの斬首』(1608)。
日常に潜む殺意と狂気。「精神を凌駕するものは、習慣だけだ」(三島由紀夫)。
高貴な習慣をもつ者だけが、真実をみつめる。日常にひそむ狂気に気づかぬ人々。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
■バロックの巨匠たち
光と闇の6人の巨匠=カラヴァッジョ、ルーベンス、ヴェラスケス、レンブラント、ラ・トゥール、フェルメール
ベラスケス、ルーベンスの闇、ラ・トゥールの蝋燭、フェルメールの空間。
敵将の首を切る美女、恍惚の聖者、自己の美貌に溺れる美青年、いかさま師、朽ち果てる果実、犯罪者として処刑される聖者と首を切る役人。
「カラヴァッジョは西洋美術史上、最大の改革を行った天才」(宮下規久朗)。聖書の物語を日常の現実のドラマとして表現。殺人事件で指名手配された「呪われた画家」。
暗闇の中に差し込む一条の光。蝋燭の光に照らされた顔。16世紀から17世紀、光と闇を描いたバロックの画家たち。徹底した写実主義で劇的な光の効果を描いたカラヴァッジオ、暗闇の中にともる光で宗教画を描いたラ・トゥール、深い闇と静謐な光を描いたレンブラント。
カラヴァッジョは、「デッサンが現存しない」「ポートレイトになぜか左利きの人物が多い」という謎がある。カラヴァッジョは「直接投影法」のトレース技法で描いていたという説がある。画家は壁にレンズをはめ込んだ暗室、暗室内に写し出されたモデルの像を、左右反転したまま描いたのか。
【バロック 中心の喪失】
円に代わり楕円が構成の中心に据えられ、全体の均衡が軸を中心とした構成と色彩効果。*ハインリヒ・ヴェルフリン
バロックは、1580年以降、反ルネサンス、対抗宗教改革の運動として展開する。
【カラヴァッジョのモデルたち、3人の娼婦たち】
聖女を表現する娼婦たち。男殺しのフィリデ、『ホロフェルネスの首を斬るユディト』1598、ナヴォー広場の諍い女レナ、『蛇の聖母』1606、赤毛のアンナ、『エジプト逃避』1598
■
バロックの巨匠たち
カラヴァッジョ
Michelangelo Merisi da Caravaggio (1571-1610)
『エマオの晩餐』1606
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
George de La Tour, Le Tricheur (1632-35)
『悔悛するマグダラのマリア』1644
ルーベンス
Peter Paul Lubens (1577—1640 )
『三美神』1630
ヴェラスケス
Verasquez (1599—1660 ) 61歳没
『ラス・メニーナス』1656
レンブラント
Rembrandt (1606—69 )
『夜警』1642
フェルメール
Veemer (1632—75 )43歳没
『牛乳を注ぐ女』1658
■カラバッジョ派
アルテミジア・ジェンティレスキ Artemisia Gentileschi(1593-1652)
■バロックが描きだす世界 現実を見つめる
【光と闇】降ってくる闇
★カラヴァッジョ『エマオの晩餐』1606
★カラヴァッジョ『洗礼者ヨハネの斬首』(1608)
★ラ・トゥール『悔悛するマグダラのマリア』1644
★ヴェラスケス『ラス・メニーナス』1656
闇のなかに光る蝋燭。闇のなかの処刑。微光のなかでくり広げられる王族と宮廷人。それを見る画家。それを見る王と王妃。
【美しき未亡人、敵将の首を斬る】
★カラヴァッジョ「ホロフェルネスの首を斬るユディト」1599
★アルテミジア・ジェンティレスキ「ユディトとホロフェルネス」1613カボディモンテ国立美術館
★クラナッハ「ホロフェルネスの首を持つユディト」1530年
―――――
アッシリア王ネブカドネザルは、反勢力民族を攻撃するため、司令官ホロフェルネスを派遣した。ホロフェルネスの軍勢は、ユダヤ人の町ベツリアを包囲した。町の水源を断たれ、指導者オジアは降伏を決意するが、ユディトは人民を励まし、神への信頼を訴える。しかし、ホロフェルネス軍と戦闘を起しても、勝算なく、ユディトは一計を企てる。
ユディト自身がホロフェルネスの陣地に赴く。
四日目にホロフェルネスは酒宴で泥酔し、天幕内にユディトはホロフェルネスと二人だけで残された。ユディトは眠っていたホロフェルネスの短剣を取り、彼の首を切り落とした。ユディトは侍女と共に首を携えてベツリアの町へ逃げ戻る。★『ユディト書』
【いかさま師の眼つき】
いかさま師の日常業務。これが、人間の現実である。
★「いかさま師」1632-35,Louvre
George de La Tour, Le Tricheur(1632-35) ,Louvre
古典主義の画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥール屈指の傑作『いかさま師(クラブのAを持った)』。ラ・トゥールの作品は静謐で精神性の高い夜中を思わせる宗教画が多い。風俗画も描いた。卓越した眼でいかさまを行なおうとする男の劇的な瞬間を捉えた作品。イタリア・バロックの画家カラヴァッジョが最初に描いたとされる主題『いかさま師』。17世紀の道徳論で三大誘惑「遊興」「酒」「淫蕩」を戒める意味をもつ。
いかさま師を描いたのは、ヒエロニムス・ボッシュが最初である。
★カラヴァッジョ「いかさま師」1595,Louvre
★ヒエロニムス・ボッシュ『いかさま師』愚者の治療 Bosch, Le Tricheur ,Prado,1490
カラバッジョ展、国立西洋美術館・・・闇と光の藝術
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/post-6502.html
―――――
★Caravaggio, Judith,1599
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★参考文献
東京都美術館『カラヴァッジョ 光と影の巨匠 バロック絵画の先駆者たち』2001
国立西洋美術館『カラヴァッジョ展』2016
カラヴァッジョ、聖なる人殺し画家の生涯『芸術新潮』2001.10
藤沢道郎『物語イタリアの歴史2皇帝ハドリアヌスから画家カラヴァッジョまで』中公新書
宮下 規久朗『カラヴァッジョ巡礼』 (とんぼの本) 2010
宮下 規久朗『カラヴァッジョ-聖性とヴィジョン-』名古屋大学出版会
宮下 規久朗『西洋絵画の巨匠 11 カラヴァッジョ』2004
宮下 規久朗『カラヴァッジョへの旅-天才画家の光と闇-』角川選書
岡田温司編『カラヴァッジョ鑑』
タブッキ『夢のなかの夢』岩波文庫
デズモンド・スアード『カラヴァッジョ灼熱の生涯』石鍋真澄訳
『プラド美術館』Scala,みすず書房
大久保正雄 2016年8月9日
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