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2016年7月 8日 (金)

旅する哲学者、ソクラテスの戦い ソクラテスの祈り

Ookubomasao89David_1787La_tour_le_tricheur_louvre1636大久保正雄『地中海紀行』第44回哲学者の魂、ソクラテスの死2
旅する哲学者、ソクラテスの戦い ソクラテスの祈り

ソクラテスの祈りは、限りなく美しい。不朽不滅の言葉は魂に刻まれる。
「この私を内なる心において美しいものにしてくださいますように。
知恵ある人をこそ富めるものと考える人間になりますように。」プラトン『パイドロス』*

ペリクレスは「我らは、美を愛して純眞さを失わず、知を愛して軟弱に陥らない。」と言った(トゥキュディデス『戦史』2巻40)。
だが、正義は地に堕ちた。(エウリピデス『アンドロマケ』)
「正義か否かが問題となるのは、力が対等の者の間だけである。」(『戦史』第5巻89)
正義の名の下に、不正が行われ、眞実の名の下に、虚偽が語られる。生きることは闘争の連続である(エウリピデス『ヒケティデス』)
紀元前406年、アルギヌーサイの海戦において、帰還した6人の將軍は処刑された。ペリクレスの子ペリクレスがいた。ソクラテスは最後まで反対した。

ソクラテスが対決したのは、権威を装い、正義を装ういかさま師である。
ソフィストたち(プロタゴラス、ゴルギアス、ヒッピアス)といわれるが、
いつの世にも、「いかさま師」(La Tricheur)は存在し跳梁跋扈する。ヒエロニムス・ボッシュ、カラバッジョ、ラ・トゥールの絵画(1636)に瞭然である。*
ソクラテスは、論理の達人に止まらず、夢と瞑想と守護霊(Daimon)の声を聴く人である。

*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』

夢と瞑想とダイモーン
ソクラテスは、人間の経路、師弟の経路を通して哲学を学んだのではなく、自己のダイモーン(守護霊)との交わりにより、直観的に理解し、霊感によって真実を直観した。瞑想に浸り、魂の秘密を叡知的直観によって、理解した。ソクラテスは、晩年、ピュタゴラス派の人々と交わり、魂の不死不滅を信じた。
ソクラテスは、ダイモーン(守護霊)の聲を聞き、夢の告げを受け、瞑想に耽った。ダイモーンは常に抑止するもの禁止するものとして現れた。ソクラテスは、ダイモーンの聲を聞き、戦場においてはポテイダイアの野に立ち盡くして一日中、瞑想に耽った。ソクラテスは、独りだけ離れて、何処でも立ち止まり、考え込む。
紀元前416年、ソクラテスは、友人アガトンの家に祝宴に行く途中、考え込み、一晩立ち尽くして、翌日、ギムナジオンに行った。 (『饗宴』) *
ソクラテスは、人々の知恵を吟味し論駁した探究者である。地位や名誉や富を追求するよりも、智慧を愛することを説いた。徳の定義を問い、弟子たちを問い詰めた。何ごとも疑うことにより独断を吟味するように勧め、弟子たちに自らの目で眞実を直視し、自己の判断に基づいて生きるように説いた。「吟味なき生は生きるに価しない」と言い、権威的な人々と対峙し、吟味を展開した。
ソクラテスは、論理の達人、吟味(エレンコス) の達人、哲学的問答法の名人であるのみならず、夢と瞑想とダイモーン(守護霊)の声を聴く人である。★

■ソクラテスの祈り
プラトン『パイドロス』最後の場面で、ソクラテスが祈る言葉。『パイドロス』279B
「親愛なるパンよ、ならびに、この土地にすみたもうかぎりのほかの神々よ。この私を内なる心において美しいものにしてくださいますように。そして、私が持っているすべての外面的なものが、この内なるものと調和いたしますように。『パイドロス』279B
私が、知恵ある人をこそ富めるものと考える人間になりますように。また、私が持つお金の高は、ただ思慮ある者のみが、にない運びうるものでありますように」
ὦ φίλε Πάν τε καὶ ἄλλοι ὅσοι τῇδε θεοί, δοίητέ μοι καλῷ γενέσθαι τἄνδοθεν: ἔξωθεν δὲ ὅσα ἔχω, τοῖς ἐντὸς εἶναί μοι φίλια.
Platonis Opera, ed. John Burnet. Oxford University Press. 1903.
ソクラテス まだ何かほかに、お願いすることがあるかね。パイドロス。ぼくにはもう、これで充分にお祈りをすませたのが。
パイドロス 私のためにも、いまのことを一緒にお祈りしてください。「友のものは共有」なのですから。(『パイドロス』279B「プラトン全集」岩波書店「岩波文庫」p178)

ソクラテスの哲学の精髄(エッセンス)がソクラテスの祈りにある。
内面の美しさ、知恵ある人をこそ富めるものと考える人になるべきことをソクラテスは祈った。哲学者は美への旅に出る。ソクラテスは魂の美を祈り、プラトンは美の迷宮を旅する。*大久保正雄「美の奥義 プラトン哲学におけるエロス(愛)とタナトス(死)」2013

■ソクラテスの知恵を愛し求めること
ソクラテスは書物を一冊も書き残さなかった。ソクラテスはソクラテスの弟子たちにとってすでに謎であった。プラトンの初期対話篇のなかに、ソクラテスの思想が伝えられている。ソクラテスの智慧を愛し求める生きかた、そして死は、自己の思想にもとづいている。ソクラテスの思想、「問答」「無知の自覺」「知恵を愛し求める」「魂の気遣い」「美しく善く生きる」について、以下に論じる。大久保正雄『ことばによる戦いの歴史としての哲学史』
1、問答
ソクラテスは、アテナイの人々とアゴラで問答した。例えば、「美とは何か」「勇気とは何か」「知恵とは何か」「徳とは何か」について、問答した。ソクラテスが、吟味したのは、徳や価値などの概念に関する問題に限局されていた。ソクラテスは、これらのあらゆる問題に対して論駁(エレンコス)の技術を駆使した。問答、吟味、論駁の果てに、すべての主張を否定的結論に導いた。問答相手を窮地に陥れ、そして自分自身と問答相手の無知を明らかにする。ソクラテスは、「吟味されざる生は生きるに値しない」(『ソクラテスの弁明』)という。
論駁の技術の展開は、5つの段階からなる。1、問答、2、吟味、3、論駁、4、窮地に陥れる、5、無知(agnoia)の宣言、である。例えば「美とは何か。」と問い、それに対して、「何であるか」を答えられなければ、すなわち、「説明すること」ができなければ「知っている」ということはできない。ソクラテスは、問答することによって、人が「知っている」か否か、自他を吟味する。例えば、「美とは何か」について、知っているか否か、吟味する。「美しいものは何か」ではなく、「美とは何か」を探求しなければならない。(『ヒッピアス大』)美しいものと、美そのものとは、ことなる。問答の果てに、自らも問答する相手も、何も知らないことが明らかになる。ソクラテスの探求は、否定的結末になるのが常であった。ソクラテスと問答相手は、問答と吟味の果てに、自らの無知を、見いだした。
*さらに、ソクラテスは、統合的な問い「徳とは何か」を問い、「徳とは教えられるものか」「徳とは教えられないものか」を問うた。(『メノン』)この問いに対する答えは、その人自身の存在の在りかたを問うものである。*
2、無知の自覚
ソクラテスは、政治家と詩人と職人を訪れ、知恵の吟味を行って、知恵をもっているか否か、調べた(『ソクラテスの弁明』)。「この人も私も、恐らく善美の事柄は、何も知らないらしいが、この人は知らないのに何か知っているように思っているが、私は知らないから又その通りに知らないと思っている。だからつまりこの微細なことで、私のほうが知恵があることになるらしい。即ち、私は知らないことを知らないと思う、ただこの点で優れているらしい。」(『ソクラテスの弁明』)
知っていることを知っているとし、知らないことを知らないとする、無知の自覚を説いた。ソクラテスの「知恵の吟味」の結果、ソクラテスは、「知らないということを知っている」が、吟味された人は、自らが知らないということを知らない。二重の無知に陥っている。ことが明らかとなった。ソクラテスは、知恵を持っていないことを自ら自覚する(『ソクラテスの弁明』21b)がゆえに、知恵を愛し求める(philosophein)のである。ソクラテスは、人間は、知恵をもたないがゆえに、知恵を愛し求めなければならない、と言う。
3、知恵を愛し求める
ソクラテスは、『ソクラテスの弁明』において言う。「私の息の続く限り、私にそれができるかぎり、決して知恵を愛し求めることを止めないだろう。」知恵を愛し求めることは、魂の気遣いをすることであり、魂の卓越性(徳)に気づかうことである。人は、地位や名譽や富を追求するのではなく、「魂ができる限り善きものになるように配慮しなければならない。」(『ソクラテスの弁明』29d-e)知恵を愛し求めることは、ソクラテスにおいて、根源的な生きかたの形、生きかたの選択であった。人間の前には、生きかたの選択、愛の岐路がある。人は、何を愛するかによって、生きかたの形が現れる。人は、何を愛し、いかに生き、いかに死ぬかによって、精神の美が現れる。哲学者は、美への旅に出る。プラトンは、美の階梯を昇る。*大久保正雄「美の奥義 プラトン哲学におけるエロス(愛)とタナトス(死)」2013
人は、知恵を愛し求め、美しく善い生きかたをしなければならない。「ただ生きるのではなく、善く生きること、美しく生きること、正しく生きることが、人間にとって大切である。」(『クリトン』48b)「自らが不正を為すよりも、ひとに不正を働かれる方がはるかに善い。」ソクラテスの生と死を貫き、行動を支えた信念がある。例えば、「魂は不死不滅である。」「善き人には、生きているときも、死せる後も、悪しきことは何も存在しない。」(『ソクラテスの弁明』)この思想は、経験的な知による立証の領域を超えている。ソクラテスは、問答法を駆使したが、論証と吟味、論理の探求にあけくれ言葉の檻を徘徊する人間ではなく、魂の奥底の聲を聞く人であった。
■プラトン対話編の迷宮、魂のドラマ
ソクラテスの残した知的遺産
ソクラテスは、否定的結論に導くことが多かったが、以下のような思想を教えた。
 知識と知恵の区別を忘れてはならない。
 自己自身と自己に所属するものの区別を忘れてはならない。名譽、富、金銭、肉体は、自己に所属するものである。自己自身とは魂である。
 魂自身ができる限り善きものになるように配慮しなければならない。
 自己自身と他を吟味して生きなければならない。
 地位や名譽や富を追求するよりも、知恵を愛さなければならない。
いのちある限り、知恵を愛し求めて、生きなければならない。知恵(ソフィア)を愛することが哲學(フィロソフィア)である。プラトン『ソクラテスの弁明』
人類の叡智の歴史にソクラテスの思想が刻み込まれた。ソクラテスの行動を生きた思想から、プラトンの対話編、魂のドラマ、哲学の迷宮、が生まれる。
★アクロポリス、エレクテイオン神殿
★ソクラテスの死、
Jack Louis David, Death of Socrates, 1787, The Metropolitan Museum of Art. New York
★「いかさま師」 La Tour, La Tricheur,1636, Louvre
★【参考文献】
John Burnet(ed.), Platonis Opera, 5vols, Oxford U.P. 1903
Herrman Diels-Walter Kranz, :Die Fragmente der Vorsokratiker1-3, Berlin, 1953
プルタルコス河野與一訳『プルタルコス英雄伝』全12巻、岩波文庫1952-1956
村川堅太郎編『プルタルコス』世界古典文学全集23筑摩書房1966
トゥキュディデス 久保正彰訳『戰史』岩波文庫1966-67
クセノポン佐々木理訳『ソクラテスの思い出』1-18岩波文庫1953,pp.25-26,237-239
クセノポン根本英世訳『ギリシア史』1-2京都大学学術出版会1998、1999
内山勝利編『ソクラテス以前哲学者断片集』全5巻、別巻1岩波書店1996-1998
ディオゲネス・ラエルティオス加来彰俊訳『ギリシア哲学者列伝』上中下、岩波文庫1984-1994
大久保正雄「美の奥義 プラトン哲学におけるエロス(愛)とタナトス(死)」2013
大久保正雄「プラトン哲学と空海の密教 ―書かれざる教説(agrapha dogmata)と詩のことば」2011
大久保正雄「ギリシア悲劇とプラトン哲学の迷宮 ―ことばの迷宮―」2010
大久保正雄「プラトンと詩と哲学 ―詩的直観と哲学的直観―」2009
大久保正雄「魂の美学 プラトン対話篇における美の探求」1993
大久保正雄「知と愛(Plato“Apologia Socratis”28d10-30c1)」1990
大久保正雄『ことばによる戦いの歴史としての哲學史 理性の微笑み』巌書房1993
斉藤忍髄『幾度もソクラテスの名を2』1986『プラトン 人類の知的遺産』講談社『知者たちの言葉』
藤沢令夫『実在と価値』『イデアと世界』『プラトンの哲学』
プラトン『ソクラテスの弁明』『クリトン』『饗宴』『パイドン』『パイドロス』『ヒッピアス』
プルタルコス『対比列伝』「アルキビアデス伝」
太田秀通『生活の世界歴史 ポリスの市民生活』河出書房1991
大久保正雄 Copyright2002.08.28 2016年7月6日改定

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