アモールとプシューケー エロースと絶世の美女プシューケー
大久保正雄『地中海紀行』第57回
アモールとプシューケー エロースと絶世の美女プシューケー
冥界の女王ペルセポネーから、美の函を地獄から持ち帰る。
函を開けて、プシューケーは深い眠りにつく。
翼もてるエロースは、プシューケーの目を覚ます。
四つの難問を解決、苦難を超えて、プシューケーは、愛に到達する。
エロースとプシューケーの愛は、魂の愛。
(François Gérard, Amor et Psyche , 1798)
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
ディオティマ「では、要するに、愛(エロス)とは善きものの永久の所有へ向けられたものということになりますね」プラトン『饗宴』
精神の目が鋭く見始めるのは、肉眼の力が鋭さを失おうとする時である。
*大久保正雄『美の奥義 プラトン哲学におけるエロスとタナトス』
■エロース
エロースは、愛の神。「大地とともに、カオス(混沌)から生まれた原初の力」(ヘシオドス『神統記』)。原初の卵が割れて、エロースが生まれ、卵の一部は天と地になった。
翼もてるエロース。(プラトン『パイドロス』)
アプロディーテーは、愛と美と豊饒の女神。キプロス島の海の泡から生まれた。「クロノスによって切断され海に投げ込まれた、ウラノスの男根から出た精液の泡」(ヘシオドス『神統記』)。ヘルマフロディトスは、アプロディーテーとヘルメスの間に生まれた子。
■エロースの二本の矢 金の矢と鉛の矢
エロースは、有翼の青年神。二本の矢、金の矢と鉛の矢をもつ。エロースは二本の矢で人間の心を操る。エロースの金の矢で射られた者は、最初に会うものに恋し、鉛の矢鉛の矢で射られた者は、嫌悪する。
アプロディーテーの嫉妬
アプロディーテーは、絶世の美女プシューケーをみて嫉妬し、エロースに彼女に不幸を与えるように命じた。エロースは、プシューケーに見惚れて、金の矢で、自らを傷つけ、一目惚れする。(François Gérard, Amor et Psyche (1798))
アポロンとダプネ
エロースは、アポロンに馬鹿にされ、復讐を思い立つ。アポロンに金の矢を放ち、ダプネに鉛の矢を放ち、アポロンの恋が成就しないように画策した。アポロンに捕まえられる瞬間、自らの身を月桂樹に変える。(オヴィディウス『変身物語』)
イアソンとメデイア
アプロディーテーは、メデイアがイアソンに恋するようにエロースに頼む。『アルゴス号の航海』をメデイアの援助で成功させるが、イアソンはメデイアを裏切り、他の女に走る。(エウリピデス『王女メデイア』)
ゼウスとエウロペ
ゼウスは、地上を眺めている時、エロースの金の矢に射られれる。ゼウスは白い牡牛に化けてエウロペを誘惑し、クレタ島に連れ去る。
■アプレイウス『アモールとプシューケー』*
アプロディーテーは、絶世の美女プシューケーをみて嫉妬し、エロースに彼女に不幸を与えるように命じた。エロースは、プシューケーに見惚れて、金の矢で、自らを傷つけ、一目惚れする。
■絶世の美女プシューケー
プシューケーは、ある国の王の娘で、三人姉妹である。二人の姉があった。三人とも美しかったが、プシューケーは絶世の美女だった。他の二人が結婚したが、プシューケーはあまりに美しいため結婚する相手がいなかった。
両親は心配し、神託をうかがった所「彼女に花嫁の衣装を着せ、怪物の人身御供にすべし」との答えをえた。両親は驚き悲しんだが神託に従い、プシューケーに花嫁衣装を着せ、山頂の岩の上に残して去った。
■美しい庭園に囲まれた宮殿
しかし、彼女は突風に持ち上げられ、深い谷間の奥へと運ばれて行った。深い眠りから目を覚ますと、彼女の前には、美しい庭園に囲まれた宮殿がある。プシューケーが中に入ると、扉が開き、彼女を中に招き入れました。中には姿は見えず声だけがある不思議な召使い達がいて、すべての用は彼女の思いのままに果たされた。夜、宮殿の主の怪物があらわれ、優しく彼女に近づき、二人は夫婦となる。彼は夫婦となってもプシューケーに自分の姿を決して見せなかったが、彼女は幸せに暮らした。
しばらくするとプシューケーは両親に会いたくなり、彼に里帰りを望む。彼は反対したが、妻の願いについに折れ、風とともに彼女を両親の元に運んで行く。
■姉の嫉妬
両親の元に帰った彼女を家族は喜んで迎えたが、プシューケーが幸せに暮らしていることを知ると、二人の姉は嫉妬に駆られ、プシューケーに燈火で夫の姿を見るよう勧める。風は再びプシューケーを宮殿に連れ帰る。
■眠るエロース(アモール)
プシューケーは、夜、自分の傍らに眠っている夫に、姉の言葉を思い出した。そして燈火で夫を照らした。そこには美しい青年エロース(アモール)が横たわっていた。その時、プシューケーの持つ燈火の一滴が彼の上に落ち、エロースは驚いて目を覚ますと、そのまま空へと飛び去って行き、プシューケーは一人地上へ取り残される。
■エロースを探すプシューケー
後悔したプシューケーは、夫を捜して世界中を探しまわる。しかし、エロース(アモール)は、燈火の一滴に焼かれ、母アプロディーテーの元で、動くことも出来ない。女神たちはプシューケーを激しく憎んだ。それを知らないプシューケーは、神々から願いを撥ねつけられ、アプロディーテーに捉えられる。
■四つの難題
そしてアフロディーテに、四つの難題をなすよう命じられる。
【一つ目の難題は、色々な種類の穀物混ざった山を、夜までに選り分けること。】
プシューケーは途方に暮れたが、蟻が同情して、代わりにやってくれた。
【二つ目の難題は、「輝く黄金の羊」の毛を一房、集めて来ること。】
しかし黄金に輝く羊は、真昼の太陽に焼かれ、荒ぶっていて、近づく事さえ出来ない。
プシューケーが戸惑っていると、葦が靡き「太陽の沈むまで近づかないよう」警告される。日が沈むと、黄金に輝く羊はおとなしくなり、プシューケーはその毛を集めることが出きた。
【三つ目の難題は、地下の冥府の川と黄泉の沼に注ぐ泉の水を水晶の器に汲んで来ること。】
しかしその流れは、巨大な山から降りそそぎ、常に蛇が見張り、水の流れまでも声を上げてプシューケーを寄せ付けない。しかしそこにゼウスの化身の鷹があらわれ、プシューケーの持つ水晶の器を持って水を汲んで来てくれた。ゼウスは何度もエロース(アモール)の力を借りていたので、プシューケーを助けた。
【最後の難題は、冥界の女王ペルセポネーから、美の函を地獄から持ち帰ること。】
プシューケーはほとんど地上まで持ち帰るが、好奇心に勝てず、開けてしまう。しかしその函には、美のかわりに深い眠りが入っていて、プシューケーは深い眠りにつく。
他方、傷が癒えたエロース(アモール)は、プシューケーを捜していた。
■エロースとプシューケーの結婚
眠っているプシューケーを見つけ、その矢でついて目覚めさせ、再び抱きしめ、ゼウスのもとへ飛んで行き、妻に迎える許可を得る。アプロディーテーはプシューケーと和解した。
その後、一人の女神を生む。
★François Gérard, Amor et Psyche (1798) François Gérard,Cupid and Psyche
Psyche and Amor, also known as Psyche Receiving Cupid's First Kiss (1798),
★Sleeping Hermaphroditus,
★参考文献
プラトン『饗宴』『パイドロス』「プラトン全集」岩波書店
エーリッヒ・ノイマン『アモールとプシュケ』紀伊国屋書店1973
アプレイウス『黄金の驢馬』岩波文庫
ヘシオドス『神統記』岩波文庫
オヴィディウス『変身物語』岩波文庫
アポロドロス『ビブリオテーケー』岩波文庫
松平千秋、久保正彰、岡道男編『ギリシア悲劇全集』全14巻、岩波書店1990-1992
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店1960
高津春繁『古代ギリシア文学史』岩波書店
アポロドロス『ビブリオテーケー』岩波文庫
松平千秋、久保正彰、岡道男編『ギリシア悲劇全集』全14巻、岩波書店1990-1992
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店1960
高津春繁『古代ギリシア文学史』岩波書店
大久保正雄『美の奥義 プラトン哲学におけるエロスとタナトス』
大久保正雄Copyright 2016年7月21日
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