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2016年7月12日 (火)

旅する詩人、エウリピデス ギリシア悲劇の極致

Apollo_belvedere_vatican大久保正雄『地中海紀行』第48回ギリシア、愛と復讐の大地2
旅する詩人、エウリピデス ギリシア悲劇の極致

マケドニア王家は、エウリピデスの悲劇を愛した。
エウリピデスは、マケドニアに行き、75歳でその地で死す。波瀾の生涯。
アレクサンドロスは、エウリピデスの悲劇を愛し、
地中海都市、アレクサンドリアに、劇場を作り、悲劇を上演した。
エウリピデス劇は、不朽となった。
アポロンの神が、絶望する人を救う。

*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』

■エウリピデス『オレステス』 ギリシア悲劇の極致
死の窮地に立たされたオレステスに救いの手を差し伸べる友ピュラデス。追いつめられた者が企てる陰謀。逆境に立つ友に、痛みをともに受け、救い出そうとする友情の美しさが、利己心に覆われた世界に光をもたらす。エウリピデスが、マケドニアに死の旅に旅立つ前、BC408年、アテナイで最後に書いた傑作である。
オレステスは、父アガメムノンを殺された復讐に、情夫アイギストス、母クリュタイムネストラを殺害した。母親殺しをし、復讐をなし遂げたオレステスは、苦悩し狂気に陥り、病に臥してしまう。娘を殺されたテュンダレオスがオレステスを告発し、アルゴス人たちは、民衆裁判にかけようとする。その時、メネラオスが漂白の旅から帰郷して、ヘレネを館に送り届け、夜が明けてから帰館した。オレステスは、叔父メネラオスに救いを求めたが、メネラオスはテュンダレオスに従い、協力しない。「小さな力で大きなものに立ち向かう見込みはない」と言う。ヘレネ奪還のためトロイ戰爭の総大将であった亡き義兄アガメムノンの仇討ちをしたオレステスを見殺しにするのである。この時、オレステスの友ピュラデスが現れ、民会に弁明するためにオレステスを抱き抱えて行く。民衆の間で議論が湧き起こり、エレクトラとオレステスの姉弟を石打により死刑に処するという結論が出された。しかしオレステスは、自ら命を絶つことを申し出る。民会から帰ったオレステス、ピュラデスとエレクトラの三人の間で、追いつめられた人間たちの謀議が為される。
ピュラデスは、「どうせ死なねばならぬなら、いっそのこと、メネラオスを道連れにしよう。」「ヘレネを殺し、メネラオスに罰を下そう」と提案する。オレステスは、「どうせ命を吐き出す身。敵に一泡ふかせてから死にたい。裏切者どもを逆に討ち果たしたい。」と言う。エレクトラは、「ヘレネが殺されて、もしメネラオスがオレステスやピュラデスや私に、何かしようとしたら、ヘルミオネを殺すと言ってやればよい。剣を抜いて、娘の喉元に突きつけておくのです。」「お前を殺そうとするなら、お前も娘の喉を切り裂いてやればよい。」二人はヘレネを殺害しようとするが、神慮によって消えてしまう。そこに現れたヘルミオネをエレクトラが館の中に入れ、二人は彼女を殺害しようとする。そこにメネラオスが現れ、三人から娘を助けようとする。オレステスはメネラオスに「アルゴス人たちに、死刑を止めるように説得せよ。」という。だがオレステスはピュラデスに館に火を放つようにいう。メネラオスは、アルゴス人たちに武器を執り助けに来るように求める。
■アポロンの神が、絶望する人を救う。
すべては窮地に陥り、行き詰まる。ここでアポロンがヘレネを従えて天空から現れる。クレーンで宙吊りになり籠に乗って現れる、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マーキナー)である。アポロンは、オレステスにはアテナイで裁判を受け、ヘルミオネと結婚すると予言する。そしてピュラデスにエレクトラを娶るように命じる。アポロンは「二人のこれからの人生は幸せが続く」と予言する。
エウリピデス『オレステス』は、ギリシア悲劇の極限であり、到達点である。『オレステス』は悲劇であるが、苦悩するオレステスは、苦難の後、アポロンによって救済され、幸福の予感のうちに、劇は終わる。エウリピデス劇は、波瀾にみちた複雑な展開、激情的な人物、窮地に陥った人々を、神が現れて救う機械仕掛けの神(デウス・エクス・マーキナー)が用いられる、メロドラマ的大衆性を帯びている。
『オレステス』は、エウリピデスがマケドニアに旅立つ前、紀元前408年、アテナイで最後に書いた悲劇である。エウリピデスは2年後に異郷の地で死に、再びアテナイに帰ることはなかった。

エウリピデスの生涯 75歳で異郷マケドニアの地で死す
『地中海人列伝』17
葛藤する激情のドラマ、陰謀劇を書いたエウリピデス。エウリピデスの名聲は、シケリアからマケドニアまで響きわたり、死後、地中海世界にとどろき渡った。
エウリピデス(BC480-406)は、第75オリュンピア紀、サラミスの海戰の年、サラミス島で生まれた。父ムネサルキデスは商人、母クレイトーは野菜売り女であった。
ムネシコロスの娘コイリレを娶ったが、結婚した妻が不貞を働いたため、女の情欲を曝露する劇『ヒッポリュトス』を書き、淫蕩な女であったため離婚した。再婚したが、前の妻以上に淫乱な女であったため、さらに熱心に女の悪口を書くようになった。
エウリピデス劇の女は、報われぬ愛に生きる女の悲劇でもあった。『ヒッポリュトス』は、ミノス王の娘アリアドネの妹、王妃パイドラーが先妻の子ヒッポリュトスに恋し、思いを遂げられぬため、自ら死を遂げ、遺書を残してヒッポリュトスを疑惑に陥れ死に至らしめ、復讐を遂げるという物語である。
初期の傑作『王女メデイア』は、コルキスの王女メデイアの物語である。魔術に通暁したメデイアは、愛するイアソンのために国宝「黄金の羊皮」を盗み出して、実弟を惨殺し、イオルコスにイアソンとともに行く。だがペリアスは王位返還に応じない。王位を簒奪したイアソンの伯父ペリアスを殺し、復讐者に追われた彼らはコリントスに亡命する。コリントス王クレオンの求めに応じて、イアソンはコリントス王女グラウケと結婚するため妻を棄てようとした。メデイアはイアソンに怨みを晴らすため、毒薬を施した衣を贈りコロントス王女を焼き殺しその父親もろとも殺害、イアソンとの間に生れた我が子をも殺し、復讐を遂げる。メデイアは、我が子を殺した後、太陽の神から贈られた有翼の龍車にのり、アテナイに逃亡、その地でパンディーオーンの子アイゲウスの妻となる。
エウリピデスは、世の中から隠遁して、サラミス島の海に臨む洞窟に閉じ籠もって海を眺めながら、執筆活動に耽った。洞窟で俗衆を避けて日々を送った。エウリピデスの作品に海の比喩が多い。理由はこのためである。
エウリピデスは、紀元前408年、『オレステス』上演後、アテナイを去って、マケドニア王国の首都アイガイに行き、アルケラオス王の宮廷に客となり、『アウリスのイピゲネイア』『コリントスのアルクマイオン』『バッカイ』を書き、紀元前406年、75歳の時、異郷マケドニアの地で、客死した。
『メデイア』からマケドニアで執筆した『バッカイ』『アウリスのイピゲネイア』まで、25年間創作活動に携り、生涯に92篇の悲劇を書いたが、優勝したのは5回であった。1回は死後甥のエウリピデスによって上演された。ギリシア悲劇全盛期、優勝することは少なかったが、彼の死後、ヘレニズム時代エウリピデス作品は圧倒的な支持を受け、最も多くの作品が残った。彼の人柄は狷介であったが、作品は民衆の人気を博した。  
ローマ帝国時代、地中海各地に建築された、大理石の劇場で、エウリピデスの悲劇は、最も愛された。苦悩する魂に、絢爛と燦めく狂言綺語の言語空間を構築し、藝術によって愛をもたらすエウリピデス劇は、二千年の星霜に耐えて、今も、比類なく美しい。
★Apollo Belvedere ベルヴェデーレのアポロン レオカレス原作
★ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」ウフィッツィ美術館
★Didyma Apollon Temple
★【参考文献】
『ギリシア悲劇全集』全14巻、松平千秋、久保正彰、岡道男編岩波書店1990-1992
高津春繁編『アイスキュロス、ソフォクレス』「世界古典文学全集8」筑摩書房1964
松平千秋編『エウリピデス』「世界古典文学全集9」筑摩書房1965
松平千秋「エウリピデスについて」『ギリシア悲劇全集』別巻、岩波書店1992
岡道男『ホメロスにおける伝統の継承と創造』創文社1988
中村善也『ギリシア悲劇入門』岩波新書1974
エウリピデス中務哲郎訳『オレステス』『ギリシア悲劇全集』
アポロドーロス高津春繁訳『ギリシア神話』岩波文庫1953
ホメロス呉茂一訳『イリアス』岩波文庫1953
オウィディウス中村善也訳『変身物語』上・下、岩波文庫1981-1984
松村一男『ギリシア神話』2012
呉茂一『ギリシア神話』新潮社1970
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店1960
大久保正雄2002.11.27

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