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2016年6月18日 (土)

旅する哲学者、エーゲ海の瞑想 ヘラクレイトスの言葉

Ookubomasao79Ookubomasao78大久保正雄『地中海紀行』第24回
旅する哲学者、エーゲ海の瞑想 ヘラクレイトスの言葉

糸杉の香りと静寂が立ち籠める、
アクロポリスの丘、きらめくエーゲ海。
エーゲ海の風に吹かれて、海岸を歩くとき、
書かれざる智慧がよみがえり、守護霊の聲が囁く。

光るエーゲ海、烈しい光が身を包み、
ダイモーンが目覺める。
光のなかで、感覺がめざめ、魂が翼をひろげ、
ヌースが光のなかを羽ばたく。
不滅の精神が、死の灰の中から蘇る。

*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』

■エーゲ海の瞑想
光輝くエーゲ海。波がない、沈黙が支配する海。
エーゲ海の海岸を歩くと、すべての感覺がよみがえり、心が蘇る。生きるとは何か、愛するとは何か、あるべき生きかたとは何か。
眞昼のクノッソス宮殿、中庭に遊ぶ孔雀のように、目的もなく、美しい時間がながれ、時が経つのを忘れる。不滅の精神(ヌース)が蘇る。文明に侵される以前の存在の姿。生の根源にある愛と存在と本質。人が何を所有するか、人が何如に見えるかではなく、人の存在の美しさが、烈しい光のなかで見える。人間の美しさは、存在の美しさ、魂の美しさによるのである。
ギリシア人の地は、貧しいが、優美であり、光あふれ、乾燥している。沙漠のように、荒寥として、美しい。イオニア地方、エーゲ海の島々、饒舌なイオニア人から哲學が生まれた。
音もなく匂いもない、ただ光零る海。潮騒が響かない、静かなる海、エーゲ海。微風が吹く。風に吹かれて歩くと、思いが融ける。
糸杉の香りと静寂が立ち籠める丘。海が見える丘を歩くと、魂が翼をひろげる。私は、動かない海を眺めて、歩きながら考える。アクロポリスの丘から、國家の形が見える。プラトンが、見えざる魂を見える形において見ようと考えたポリス。
緑陰を歩くと、緑なす思いに身が包まれる。糸杉の香りが漂う丘を歩くと、糸杉の香りに身も心も包まれ、香りは思惟となる。光溢れるエーゲ海を歩くと、光の思想が心にあふれる。エーゲ海の哲學者の魂がよみがえる。

■エーゲ海のカフェテラス 
金色に輝く光る海が、静かに移ろっていくのを眺めながら、何もしない時間、無為の逸樂。樹木の枝の下に、パラソルを広げるカフェテラス。ギリシアのカフェ、タベルナは陽光が降りそそぐテラスにある。
言葉を交わすこと樂しむギリシア人。昼下がり、木陰でタブリをさすギリシア人。陽光の下に、時が経つのを樂しみ、生きる時間を樂しむ。
カフェテラスは、大きな木の下にある。枝をひろげる木の下に、パラソルをひろげ、その下にテーブルと椅子があり、人が料理と果実を食べ、葡萄酒を飲み、そしてテーブルの下には、犬と猫がいる。犬と猫は人間から食べものをもらうために待ち受けている。
 エーゲ海のカフェテラスは、太陽と樹木と人間と動物が共に生きる空間である。人間は宇宙の生命の一部である。人間を含めて生きものが、太陽の光を樂しみ生きる歓びを味わう空間。地中海的生活様式の優雅な舞台装置である。
 エーゲ海の島々の海岸、アテネ、タッサロニキ、ギリシアの至る所にカフェテラスの文化が生きている。クレタ島イラクリオンのレストランで葡萄の蔦が空を蓋う木洩れ日の下に、テーブルをならべている。デルフォイで、斷崖の上に葡萄の枝がのびるテラスのレストランがあり、その名はタベルナ・ディオニュソスであった。デルフォイの斷崖のレストランからの眺めは、コート・ダジュール(紺碧海岸)のようである。眼下にコリントス灣が見える。
ギリシアは、變身物語の古代から、太陽と樹木と人間と動物が、空間の中に融け合って生きてきた。此処には、生きとし生けるものの心が共感する世界がある。

■哲學者の魂を求めて
生きるか死ぬか、命を賭けて、革命期の志士のごとく、熾烈な精神を以って生きなければ、哲學者ではない。かつて、理想のために戰い、己の思想に殉じた哲學者が存在した。かつて、名譽のためでなく地位のためでもなく、知恵を愛するがゆえに、哲學者(philosophos)と呼ばれた人が存在した。美しい魂にのみ、智慧への愛が生まれる。哲學者が滅びて、すでに長い歳月が流れた。
 思想は、変革を意図するところに生まれる。変革者は必ず思想家でなければならない。そして行動する者でなければならない。  地上に美と善を実現するために、命を賭けて、革命期の革命家のごとく燃えるような精神を以って生きなければ、哲學者の名に値しない。生きるか死ぬか、命を賭けて言葉を刻み、美しく生きなければ詩人の名に値しないように。美と善は、己の命を賭けて、己の命と引きかえに、手にいれるものである。人生は一度しかない。心から愛することに命を使うべきである。人は、美しい人生を、探求しなければならない。「人生は美しい」メLa vita e bella.モと考えるイタリア人のように。  私は、哲學者の魂を探す旅に出た。地上に刻まれた美しい魂の影を求めて。かつて地上に生きた哲學者の魂を求めて、私はさすらう。愛と復讐の大地ギリシアには、哲學者の魂が刻まれている。エーゲ海の輝く海原に、アクロポリスの丘に、いのちを賭けて生きた哲學者の魂が漂う。

■ヘラクレイトスの言葉
朽ち果てた書物
書庫の暗闇の中から『ソクラテス以前の哲學者たち』を見つける。若き日、胸時めかせて、讀んだ書物。十数年ぶりに頁を開く。光陰は矢のように流れ、思い出が蘇る。かつて純白の色が目に眩しい表紙は枯葉色に変り果て、私は時の流れを知る。美しい書物が心のなかでのみ蘇る。歳月が流れ、書物は朽ち果て、書物を讀む者は、苦難に襲われ血に塗れ死に瀕したが、エーゲ海の哲學者の言葉は輝きを放ち續ける。失われた夢のように。光り燦めくエーゲ海のように。  燦めくエーゲ海の海原を見る時、時が経つのを忘れ、永遠の今が蘇る。眞實の言葉が、魂を救う。紺碧のエーゲ海。イオニアの海岸。イタリアのギリシア都市。
ピュタゴラス、ヘラクレイトス、愛鍾した言葉の輝き。地中海を旅したピュタゴラス。
孤高な哲人ヘラクレイトス。わが眷戀の地、エーゲ海。エーゲ海の岸辺を歩くと、ヘラクレイトスの言葉を思い出す。永劫に回歸する円環的な時間。果てしなき魂の境界。多識は叡智を妨げる。知識によっては到達できない精神。輝ける魂。
ヘラクレイトスは、エペソスで生まれた。王族あるいは、エペソスの貴族階級に属した。
ヘラクレイトスの言葉
「火は土の死を生き、空気は火の死を生き、水は空気の死を生き、土は水の死を生きる。」 (Fr.76.cf.Fr.36)
「あらゆる道を辿っても、行きて、魂の果てを見出すことはできない。それほどに深いロゴスを魂は有するのだ。」(Fr.45)
「多識(polymathie)は精神(ヌース)を有することを教えない。」(Fr.40)
「乾いた光輝、この上なく知的にしてまた最も優れた魂。乾いた魂は、この上なく知的でまた最も優れている。」(Fr.118)
★参考文献
Herrman Diels,Walter Kranz “Die Fragmente der Vorsokratiker” 3Bande,Berlin, 1953
ディールス=クランツ『ソクラテス以前の哲学者断片集』1951
G.S.Kirk, J.E.Raven and M.Schofield “The Presocratic Philosophers” 1st.ed.1957, 2nd.ed.1983, Cambridge University Press
John Burnet(ed.), Platonis Opera, 5vols, Oxford Classical Text, Oxford U.P.1903
William David Ross, Aristotelis Metaphysica, Oxford U.P.
田中美知太郎、藤沢令夫訳『ギリシア思想家集』世界文學体系63 筑摩書房 1965
内山勝利編『ソクラテス以前哲学者断片集』全6巻、岩波書店1996-1998
斎藤忍隋『知者たちの言葉』岩波新書1976
ディオゲネス・ラエルティオス加来彰俊訳『ギリシア哲学者列伝』岩波文庫1984-1994
プルタルコス河野與一訳『プルタルコス英雄伝』全12巻岩波文庫1952-1983
村川堅太郎編『プルタルコス』世界古典文学全集23筑摩書房1966
★ロドス島 リンドス城壁とエーゲ海
★リンドス アクロポリス
大久保正雄COPYRIGHT 2002.01.30

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