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2016年6月10日 (金)

地中海、魅惑の海のほとりにて

Ookubomasao51Ookubomasao52大久保正雄『地中海紀行』第18回
地中海、魅惑の海のほとりにて

紺碧の海が、夕映えに染まる時、
あらゆる苦しみ、悲しみ、歓びが、一つに融け、
黄昏の海に、夕暮の諧調が響く。

旅する皇帝、ハドリアヌスが航海した海、
女王クレオパトラ7世が歩いたエフェソスの丘、
アレクサンドロス3世が渡った海峡。
荒ぶる魂、心の波立ちが、人を行動に駆り立てる。

夢のように過ぎた美しい日々、愛は過ぎ去りし日の星影。
紫色の黄昏が忍びよる。
星が輝く夜、あなたと歩いた月光の庭。

地中海の微風が吹く、
パルテノンの丘に、フィレンツェの丘に。
地中海のほとり、瞑想する、黄昏の旅人。
知恵を愛する魂のみが、魂の翼をもつ。
行け、輝ける精神。魂の翼よ、はばたけ。

*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』

【地中海】
地中海は一つの海ではない。地中海は海の複合体である。
エーゲ海、イオニア海、アドリア海、黒海、マルマラ海、ティレニア海(イタリアの海)、エトルリアの海。西の涯て、南スペインとアフリカの間にある海、そしてジブラルタル海峡。(cf.F.Blaudel『地中海』1、16-18.173-174)
 文明の十字路に広がる地中海。多様な文化が、対峙し戰い、そして融け合う地中海世界。多民族が異質のものとの出会い、對決と抗爭の果てに、華麗な文化の花が咲き亂れた。
 地中海に花開いた、比類なく美しい藝術。藝術作品としての國家は、多樣な文化の出会いの中から生まれた。地中海のほとり、叡智が生まれた。

■地中海のほとり、人類の叡智が生まれた。
人類の叡智は、地中海のほとりで生まれた。ギリシア人が生みだした哲學と藝術。エジプト人が築いた建築と農業技術。ローマ人が構築した都市。ソクラテスが生と死を貫いた生きかた。ソクラテスの問答と吟味と論駁。プラトンが書いた対話編は、人類史に普遍的な価値をもつ。

■地中海都市彷徨
アドリア海の紺碧の海原。カナル・グランデを疾走する舟の上から、私は、水面に漂う陽炎のような都を見たとき、幻を見た。海の都ヴェネツィア。金色に輝く寺院、円蓋の燦めき。
ヴェネツィア、サンマルコ寺院の伽藍。海の都コンスタンティノポリスの殘影を曳くその姿は、滅亡した帝國よりも美しい。「海の都」「水上の迷宮都市」「アドリア海の花嫁」「水面に漂う虹の都」と呼ばれるヴェネツィア。15世紀、地中海いたるところ、港に拠点を築き、地中海の制海権を掌握した。
 地中海は、海洋都市のネット・ワークと對立抗爭によって、結ばれていた。アレクサンドリア、カルタゴ、コンスタンティノポリス、ヴェネツィア、ジェノバ、ピサ、アマルフィ、クレタ島カンディア、アテナイの港ペイライエウス。例えば、アレクサンドリアは、ローマ帝國最大の商業都市であり、エジプトの豊饒な穀物が港からローマへと運ばれ、榮光のローマ帝國の食糧源であった。
 地中海の岸辺、海洋都市によって様々な言語、藝術、宗教、思想、學問がもたらされ、人々は己と異質のものと出会った。異國と出会う処に、新たな文化が生まれる。

■生きる楽しみに耽溺する地中海人
イタリア人は「人生は美しい」(La vita e bella.)と考える。愛に溺れ、藝術に溺れ、美食の樂しみを追求するイタリア人。陽の光の下で生き、月の光の下で愛する。トルコ人は「人はこの世に一度だけやって来る」と言う。この現世の生は一度限りである。たとえ不滅の魂が、輪廻転生して生まれ變っても、この現身の生は一度かぎりである。個のいのちは尊い。眞に美しい人生を生きる。一瞬一瞬、眞に、美しく生きること。これが人生の目的である。人は、一度しかない限りあるこの命を、美しく生きねばならない。現身のこの生は貴く美しいものである。いまここに生きているということはかけがえのない、尊いことである。それゆえ眞に愛すべきものを愛し生きねばならない。愛の重さは存在の重さである。ロレンツォ・デ・メディチは歌った。
「青春は麗し、されど逃れ行く、樂しみなさい、明日は定めなき故に」ロレンツォ・デ・メディチ『謝肉祭の歌』

■天と地の狭間を旅する旅人
地中海の海原を旅する時、スペインの荒涼とした大地を旅する時、天と地の狭間を旅する時、ひとは自己が何を所有するかではなく、自己が何であるかを考える。自己が所有するもの、地位や名譽や財産ではなく、自己がいかに見えるかではなく、自己の存在が何であるか。自己自身が何であるかを探求することができる。人をして眞に人たらしめるものは何か。
スペイン、サンチャゴ・デ・コンポステラ巡礼の旅に出た俳人黛まどかは、旅することには三つの意味があると言う。少ない物で生きることができる。少ない言葉で生きることができる。人を信じることができる。そして、自己の内面を旅することができる。
この世の果てまで旅して、人は魂の果てを探求する。大地の果てにたどり着くことはできるが、人は魂の果てを探求しても、魂の涯に辿り着くことはできない。魂の地平には、限界がないからである。
★参考文献
ギボン中野好夫訳『ローマ帝國衰亡史』ちくま学芸文庫、筑摩書房1995
J.ブルクハルト柴田治三郎訳『イタリア・ルネサンスの文化』中央公論社1966
F.ブローデル浜名優美訳『地中海』1-5巻、藤原書店1991-1995
F.ブローデル神沢榮三訳『地中海世界・』みすず書房1990
大久保正雄『理性の微笑み ことばによる戦いの歴史としての哲学史』理想社1993
大久保正雄「魂の美学 プラトンの対話編に於ける美の探究」「上智大学哲学論集」第22号、1993
大久保正雄「理念のかたち かたちとかたちを超えるもの」『理想』659号、理想社1994
陣内秀信『都市の地中海 光と海のトポスを訪ねて』NTT出版1995
プラトン『ソクラテスの弁明』『パイドン』
John Burnet(ed.), Platonis Opera, 5vols, Oxford Classical Text, Oxford U.P.,1903
★花の聖母教会 フィレンツェ
★花の聖母教会とジョットの鐘楼
大久保正雄COPYRIGHT 2001.9.26

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